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ゲド戦記 2 こわれた腕環 (ソフトカバー版)
中級者ゲド戦記シリーズ第2巻ル=グウィンの代表作のひとつ

【要約・書評】『ゲド戦記 2 こわれた腕環 (ソフトカバー版)』の評判・おすすめポイント

アーシュラ・K・ル=グウィン|岩波書店|2006-04-07|243ページ

4.5
(4件)

この本を一言で言うと

神殿の巫女テナーが「こわれた腕環」を持つゲドと出会い長年の束縛から自由へと旅立つ——ゲド戦記第2巻は少女の解放と自己発見の物語

この本の概要

『こわれた腕環』はアーシュラ・K・ル=グウィンの「ゲド戦記」シリーズ第2巻。第1巻『影との戦い』の主人公ゲドは登場するが、本作の主役は少女テナー(アルハ)だ。生まれたときから名もなく、「アルハ(すべてを食らう者)」という称号だけを与えられ、古代の迷宮で神殿の巫女として育てられた少女。 ある日、迷宮に侵入した魔法使いゲドと出会う。テナーはゲドが求める「こわれた腕環」という古代の遺物を持つ守り人だった。テナーはゲドを助けるかどうかの葛藤の中で、自分自身が信じてきた「使命」の意味を問い始める。 本作の核にあるのは「自由とは何か」という問いだ。テナーは生まれてからずっと神殿の秩序の中にあり、そこに疑問を持ったことがなかった。しかしゲドの存在が彼女の中の何かを動かす。宗教的権威と個人の自由、「選ぶ力」の発見がル=グウィンらしい静かな文体で描かれる。 シリーズ全体でル=グウィンが描こうとした「均衡(バランス)」というテーマが本作では女性の視点から展開される。男性中心的なファンタジーへのアンチテーゼとして書かれた本作は、第1巻とはまったく異なる読み応えがある。

「本当の名前を取り戻す」ということの重さを、この本で初めて理解した

ゲド戦記シリーズの第1巻を読んで「面白かった」という感想を持ちながらも、第2巻は主人公が変わると聞いてしばらく積んでいた。ゲドの続きが読みたかったから。 でも読み始めて気づいた。これはゲドの物語ではなく、テナーの物語だ。そして、第1巻とは全然違う意味での「自由への旅」が描かれていた。 テナーが生きてきた神殿の描写がまず印象的だった。名もなく、「アルハ(すべてを食らう者)」という称号だけを与えられて育てられた少女。迷宮の守り人としての使命だけを持ち、外の世界を知らない。でも彼女はそれに不満を感じてこなかった。「疑問を持つこと自体を知らなかった」という描写が、抑圧の本質を突いていた。 ゲドとの出会いから始まる変化は、ドラマチックではなく静かだ。ゲドが何か革命的なことを言うわけではない。ただテナーの前に「外の世界の人間」として立つだけ。それだけでテナーの中の何かが動き始める。 特に印象的だったのは、テナーが自分の「本当の名前」を思い出すシーンだ。アルハという称号ではなく、生まれたときに持っていた名前テナー。名前を持つことが自己の存在を取り戻すことと重なる描写は、読んでいて胸に刺さった。 迷宮から出るクライマックスは、単なる脱出劇ではなく「自己解放」の儀式のような意味を持つ。ル=グウィンのフェミニスト的な問題意識がゲドとの関係を通じて丁寧に描かれていた。 第1巻が「影(恐怖)との戦い」なら、第2巻は「束縛からの解放」だと思う。どちらも読む価値があるが、この第2巻の方が個人的により深く刺さった。静かで美しい一冊。

31歳 福祉職、ル=グウィンを全部読んでいる

この本で学べること

女性の自己発見と解放の物語

神殿の巫女として束縛されてきたテナーが「選ぶ力」を発見する。男性中心的なファンタジーへのアンチテーゼとして書かれたル=グウィンの意図が鮮明だ。

「名前」というアイデンティティの問い

「本当の名前を取り戻す」という展開がアイデンティティの本質を問う。名前を持つことが自己の存在確立と重なるル=グウィンの哲学が貫いている。

第1巻と全く異なる視点と読み応え

第1巻が少年ゲドの成長譚なら、本作は少女テナーの解放の物語。シリーズを通じて視点と問いを変え続けるル=グウィンの知性が際立つ。

宗教的権威と個人の自由

古代神殿の秩序の中で育ったテナーが「疑問を持つことを知らなかった」という描写が権威の本質を突く。自由への最初の一歩が問いを持つことというテーマが深い。

本の目次

  1. 1アルハの神殿
  2. 2迷宮の守り人
  3. 3侵入者との出会い
  4. 4こわれた腕環
  5. 5名前の記憶
  6. 6迷宮からの脱出
  7. 7外の世界へ

良い点・気になる点

良い点

  • 女性の自己発見という第1巻にない視点が新鮮
  • 静かで美しいル=グウィンの文体が際立つ
  • 短く読みやすいのに内容が深い
  • 「名前」とアイデンティティという普遍的テーマ

気になる点

  • 第1巻ファンはゲドが主役でないことに戸惑うかもしれない
  • 静かな展開を好まない読者には物足りないこともある

みんなの評判・口コミ

m
miku

Webマーケター

5.0

第1巻より第2巻の方が好きかもしれません。テナーというキャラクターが静かだけど強くて、自分の名前を思い出すシーンで泣きそうになりました。ル=グウィンの女性への視点がとても温かい。

a
ao

フリーランスデザイナー

4.5

「名前を持つことの意味」というテーマがとても深い。デザインの仕事でも「命名」は重要で、テナーの体験が不思議なほど自分事に感じました。短いのに密度が高い一冊。

R
R

エンジニア

4.5

フェミニストファンタジーとして1970年代に書かれたとは思えないほど今も新鮮。「疑問を持つこと自体を知らなかった」という抑圧の描写が鋭い。現代の社会問題と重なって読める。

n
nao

バックエンドエンジニア

4.0

技術的に見ると、短い作品の中に複数の問いを詰め込む構成力が凄い。「自由」「名前」「宗教」「ジェンダー」が自然に絡み合っていて、説教くさくない。名作の設計だと思います。

こんな人におすすめ

ゲド戦記第1巻を読んだ人

第1巻とは全く異なる視点と主人公で、シリーズの深みが一層広がる

フェミニストファンタジーに興味のある人

1970年代のフェミニスト文学として、女性の自己解放を静かに描く傑作

短く深い読書体験を求める人

200ページほどの短さの中に哲学的な深みが詰まった密度の高い一冊

関連書籍との比較

タイトル著者レベル評価価格
影との戦い ゲド戦記アーシュラ・K.ル=グウィン中級者★★★★★ 4.5¥902
ライオンと魔女C.S.ルイス初心者★★★★★ 4.5¥913
不思議の国のアリスルイス・キャロル初心者★★★★★ 4.5¥605
はてしない物語ミヒャエル・エンデ中級者★★★★★ 4.5¥3,146

よくある質問

Q. 第1巻を読んでいないと楽しめませんか?
A. 第1巻を読んでいると世界観の理解が深まりますが、本作単独でも楽しめます。ただしゲドというキャラクターの背景を知っていると物語の深みが増します。
Q. 第1巻の主人公ゲドは出てきますか?
A. ゲドは登場しますが、本作の主人公は少女テナーです。第1巻のゲドの視点とは異なる物語として楽しめます。
Q. フェミニストファンタジーとはどういう意味ですか?
A. 男性中心的なファンタジーの書き直しとして、女性の視点と自由をテーマにして書かれた作品という意味です。難しいテーマですが、物語として純粋に楽しめます。
Q. シリーズは全部読んだ方が良いですか?
A. 各巻が独立したテーマを持ちますが、シリーズを通じて「均衡(バランス)」という一貫したテーマが深まっていきます。全巻読むことをおすすめします。
Q. 宮崎映画との関係は?
A. 宮崎吾朗監督の「ゲド戦記」(2006年)はシリーズ第3巻「さいはての島へ」を基にしていますが、内容は大きく異なります。本作(第2巻)は映像化されていません。