最新のホラー小説が読める本のおすすめ人気ランキング25選【2026年版】
監修

佐藤メバル
@shelfy_mebaru
編集長。あらゆるジャンルの本を年間数百冊読み込む本のプロ。投資・経営から小説・実用書・絵本まで、良書と読者の相性を見抜く。

橘ナナミ
@medias_nanami
編集部の新人インターン。22歳の大学院生で、メディア論を研究中。「それ気になります!」が口癖の天然キャラ。読者の素朴な疑問を代弁する役割で、各メディアの専門家にいろんなジャンルの素朴な質問をぶつけていく。
最終更新: 2026年10月
橘ナナミ
「ホラー小説 おすすめ」で検索すると、ランキング記事が山ほど出てくるのに、顔ぶれが全然違うんです。「2026年最新」と書いてあっても去年の本が並んでいたりして。何を信じればいいんでしょう?
佐藤メバル
いい質問だね。ホラーは「怖さの質」が作品ごとにまるで違う。書店員時代、ホラーの棚を怖さの強さで並べたらまったく動かなくてね。並べ替えたのは読んだあと、どんな気持ちで本を閉じるか。それで棚は一気に見えるようになった。
橘ナナミ
読後感で選ぶ…! ゾッとするだけの本と、切なくなる怖い本は別物ですもんね。
佐藤メバル
そう。だからこの記事は順位を読み上げるだけでなく、目的・耐性・形式・入手性・分量・怖さの種類という6つの軸から逆引きできるようにしている。2026年は恩田陸『鈍色幻視行 上』、櫛木理宇『無音 忌み語を紡ぐ町』、貴志祐介×荻堂顕『最恐ホラー 嫌な記憶』と新刊も揃った。まずは自分の「今の気分」から選ぼう。
最新のホラー小説が読める本の選び方
目的別——怖がりたいのか、考えたいのか
橘ナナミ
目的別だと、どう分かれますか?
佐藤メバル
純粋に怖がりたいなら小野不由美『屍鬼(一)』。閉ざされた集落で続く不審死を、殺人か疫病か、それとも——と追う大河だ。謎解きも欲しいなら京極夏彦『姑獲鳥の夏』。古本屋にして陰陽師の京極堂が憑物を落とすシリーズ第1弾で、ホラーと本格ミステリの橋になる。
橘ナナミ
余韻を味わいたい人なら?
佐藤メバル
吉田珠姫『むかさり』や乙一『失はれる物語』だね。後者は触覚以外を失った語り手を描く短編集で、怖さのあとに切なさが残る。仕掛けを考察したい人は三津田信三『忌館 ホラー作家の棲む家』——主人公の名前が“三津田信三”という作品だ。
レベル別——ホラー耐性のロードマップ
橘ナナミ
怖いの苦手な私がいきなり『屍鬼』は危ないですよね…。
佐藤メバル
危ないね(笑)。耐性が低いうちは短編の古典から。金原瑞人さんの訳・翻案で編まれた『八月の暑さのなかで』や『南から来た男』は、ポーやサキ、ダール、ブラッドベリの短編を一口サイズで味わえる。慣れたら『小さな手 ホラー短編集4』の「猿の手」、次に宮部みゆき『今夜は眠れない』へ。上級者は三津田信三『生霊の如き重るもの』——怪異と論理が同時に迫る短編集だ。
形式別——長編・短編・アンソロジー
橘ナナミ
アンソロジーが多いのもホラーならではですか?
佐藤メバル
そう。『堕ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー』は宮部みゆき、三津田信三、小池真理子らが全編書き下ろしで参加し、1冊で複数の作家の怖さを試せる。『祠破壊ホラー小説アンソロジー』は「祠が破壊される」という共通の依頼に7名が応えた企画型だ。長編を腰を据えて、という人は『鈍色幻視行 上』から始めよう。
入手性別——新刊・文庫・絶版
橘ナナミ
読みたい本が絶版だと、がっかりします…。
佐藤メバル
だから入手性も大事な軸だ。京極夏彦『姑獲鳥の夏』や『今昔続百鬼 雲』のように文庫で長く刷られている本は安心して手に取れる。新刊は出た直後がいちばん入手しやすい。図書館で試してから買うのも立派な選び方だよ。
分量別——1時間で読むか、数日かけるか
橘ナナミ
積読が増えるタイプなので、分量は気になります。
佐藤メバル
短編集なら1日1話で読める。長編は全貌が見えるまで時間がかかるぶん、没入感が桁違いだ。『無音 忌み語を紡ぐ町』のような単行本の長編は、週末にまとめて読む前提で組むと読みやすい。
怖さの種類別——4象限で整理する
橘ナナミ
「怖さの種類」って、どう言語化すれば…。
佐藤メバル
横軸に怖さの質、縦軸に読後感を取ると整理しやすい。じわじわ型は平谷美樹『百物語(第4夜)』や『女之怪談』のような実話系怪談。生理的嫌悪型は瀬川貴次『わたしのお人形』や小池ノクト『過去が殺しにやって来る』。人間の悪意型は内藤了『憑き御寮』や敷島シキ『祟られ屋・黒染十字』。思考が揺らぐ型は千街晶之編『魍魎回廊』のようなホラーとミステリの境界を攻める一冊だ。原型に触れるなら『ポー短編集 黒猫』、現代的な入口なら田中靖規『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』がある。
橘ナナミ
軸が決まると、選ぶのが急に楽になります!
佐藤メバル
でしょ。ここで自分の好みの座標がだいたい見えたはずだ。次は実際のランキングを、その座標に当てはめながら眺めてみて。
最新のホラー小説が読める本をひと目で比較
橘ナナミ
えっ、25冊もあるんですか!?まずどう見ればいいんですか?
佐藤メバル
焦らず焦らず(笑)。まずはこの一覧で全体像を眺めてみよう。価格・著者・対象読者をまとめて見られるから、自分に近そうなのが分かるはず
最新のホラー小説が読める本のおすすめ人気ランキング
橘ナナミ
一覧だけだとピンと来ないので...1冊ずつ詳しく教えてください!
佐藤メバル
よし、それじゃあ1位から順に1冊ずつ解説していこう。各冊どんな人に向いてるかも合わせて話すから、自分に合いそうなのを見つけてほしい
むかさり
吉田珠姫 著|二見書房
¥704(税込)
病弱な幼馴染・崇宏の見舞いを続けてきた香織。だが年を経て向けられる強い情念と傲慢な要求に、香織は嫌悪を覚えていた。その崇宏が亡くなり、明日は四十九日。気乗りしないまま崇宏の家へ向かう——交わらなかった哀しき想いを描く表題作をはじめ、何気ない日常で起こる切なくも恐ろしい青春ホラーを集めた短編集です。ホラーと青春の同居が最大の読みどころです。
こんな人におすすめ
青春時代の人間関係に痛みを覚えたことのある人、じわじわ系のホラーが好みの人、短編集を寝る前に少しずつ読みたい人、恋愛や友情の裏側にある執着を描いた物語を求める読者に向きます。
良い点
- 短編で読みやすい
- 日常の恐怖を丁寧に描く
- 青春の切なさが残る
気になる点
- 派手な恐怖は少なめ
- グロ描写は控えめ
- 短編のため没入は浅め
出版社
二見書房
発売日
2018年12月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
この「むかさり」ってどう読むんですか? それに幼馴染の見舞いの話って、けっこう普通に聞こえるんですけど、本当にホラーなんですか?
佐藤メバル
いい質問だね。読みは「むかさり」で、昔の葬送に関わる言葉が由来とされています。表向きは見舞いの話なんだけど、香織が崇宏に向ける感情——同情と嫌悪が入り混じったまま、その人が亡くなってしまう。
明日は四十九日という状況が、残された側の後ろめたさをじわじわ炙り出していくんです。日常の延長に恐怖が滲む、静かな怖さが持ち味です。
橘ナナミ
なるほど……。叫んだり血が出たりする怖さじゃなくて、心の中がざわざわするタイプなんですね。寝る前に読んだら、しばらく布団で考え込んじゃいそうです。
佐藤メバル
まさにそのタイプ。短編集だから一篇ずつ味わえるのもいいところで、表題作以外にも何気ない日常で起こる切なくも恐ろしい話が並びます。
書店員だった頃、こういう静かなホラーは棚の位置に困ってね。ホラーコーナーの奥に置くと、普段ホラーを読まないお客さんが手に取ってくれるんですよ。
誰かを悼む気持ちが残る人ほど刺さる一冊です。
堕ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー
宮部みゆき 著|KADOKAWA
¥902(税込)
宮部みゆき、新名智、芦花公園、内藤了、三津田信三、小池真理子が参加し、あらゆるホラージャンルを詰め込んだアンソロジー。全作が本書のための書き下ろしです。切ない現代ゴーストストーリー、読者が結末を見つける体験型ファンタジー、河童が与える三つの試練、呪われた家、作家怪談、幻想譚まで、作家ごとの恐怖の質の違いを一冊で味わえます。
こんな人におすすめ
好みのホラー作家がまだ見つかっていない人、複数の作家を一度に試したい読者、短編を一気に味わいたい人、贈り物にも外れの少ない一冊を探している人に向きます。
良い点
- 全作書き下ろし
- 作家の個性が並ぶ
- ジャンルの幅が広い
気になる点
- 好みのムラが出やすい
- 短編で物足りない人も
- 重い内容が続く
出版社
KADOKAWA
発売日
2024年08月23日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
えっ、この顔ぶれで全作が書き下ろしなんですか? アンソロジーって、どこかで読んだ短編の寄せ集めのこともあるイメージだったんですけど。
佐藤メバル
そう、そこが大きい。宮部みゆきさんは切ない現代ゴーストストーリー、新名智さんは読者が結末を見つける体験型ファンタジー、芦花公園さんは河童が与える三つの試練、といった具合に、テーマも手法もばらばらでね。
作家ごとに怖さの作り方がまるで違うので、自分の好みがどこにあるか分かります。ホラー小説の醍醐味を味わうならまずはここから、と言われるくらい意欲的な一冊です。
橘ナナミ
一冊で好みの作家を探せるの、いいですね! 私は読者が結末を見つけるっていうやつが気になります。結末を自分で選ぶってことなんですか?
佐藤メバル
そこは読んでのお楽しみだけど、体験型と銘打たれている通り、読み手の参加の仕方が独特です。ほかにも内藤了さんの呪われた家、三津田信三さんの作家怪談、小池真理子さんの幻想譚と、締切前の書店はこの手のアンソロジーが本当によく動くんですよ。
短編だから、一話ずつ少しずつ読むのにも向いています。
祠破壊ホラー小説アンソロジー
阿泉来堂 著|星海社
¥1,760(税込)
星海社の15周年記念企画として、依頼を託された作家たちが新たな祠の創造と破壊に挑んだ一冊です。同じ「祠が破壊される」という条件なのに、出てくるものがまるで違う。高校の同級生との再会が首をめぐる記憶を呼び醒ます話、祠ハンターの狂気を描く話、神威を放って敵の祠を壊す異能バトル、ギャルに目撃された少年の話まで。同じ条件からこれだけ振れるのが企画アンソロジーの醍醐味です。
こんな人におすすめ
同じお題から作家ごとに全く違う話が生まれるのを楽しみたい人、企画アンソロジーが好きな人、異能バトルから静かな怪異まで幅広く味わいたい読者に向きます。
良い点
- 同じ条件で作家の腕比べ
- 企画として珍しい
- ジャンルが広い
気になる点
- 好みのムラが出る
- 全作読むには時間が要る
- 異能バトルは好みが分かれる
出版社
星海社
発売日
2025年07月16日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
タイトルがもう依頼文みたいでびっくりしました。「祠が破壊されるシチュエーションを含むホラー小説を執筆してください」って、作家さんたち大変だったんじゃないですか?
佐藤メバル
星海社の15周年記念企画で、託された作家たちが新たな祠の創造と破壊に挑んだ一冊です。同じ「祠を壊す」という条件なのに、出てくるものが全然違うのが面白い。
高校の同級生との再会が首をめぐる記憶を呼び醒ます話、祠ハンターの狂気を描く話、神威を放って敵の祠を壊す異能バトル、ギャルに目撃された少年の話まで。
同じ条件からこれだけ振れるのが企画アンソロジーの醍醐味です。
橘ナナミ
同じお題で書いてるのにバトルロワイヤルまで出てくるんですか!? ホラーっていうくくりがもう広いですね。
夢でナニカに呼ばれる少年の話も気になります。
佐藤メバル
静かなものから激しいものまで揃っていますよ。孤島で幼い頃を過ごした少年に島の不穏な真実が忍び寄る話、奇跡の聖女となった姉を救うため妹が祠の破壊を決意する話、子どもができない悩みを抱えた夫婦が大量の石祠に出会う話。
書店時代、こういう企画本は棚一列を丸ごと入れ替える勢いで展開したものです。
忌館 ホラー作家の棲む家
三津田信三 著|講談社
¥979(税込)
奇妙な原稿がある新人賞に投稿され、「私」は応募者の名が「三津田信三」だと友人から知らされる——でも身に覚えがない。そのころ偶然探しあてた洋館を舞台に、「私」は怪奇小説を書きはじめる。本格ミステリーとホラーが見事に融合する“作家三部作”第一作で、後日譚「西日」も収録。作者と作中人物の境界が溶けていく感覚がたまりません。
こんな人におすすめ
作家三部作の原点から三津田信三ワールドに入りたい人、本格ミステリーとホラーが交わる作品を探している人、洋館を舞台にした怪奇小説が好きな人に向きます。
良い点
- ミステリーとホラーが融合
- シリーズの原点が読める
- 後日譚「西日」を収録
気になる点
- 構成がやや入り組む
- 作風に好みが分かれる
- 予備知識があると尚良い
出版社
講談社
発売日
2008年07月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
主人公が「三津田信三」って、作者さんと同じ名前ですよね? これ、実話なんですか?
佐藤メバル
そこがこの作品の入り口でね。自分の名前で投稿された覚えのない原稿、そして偶然見つけた洋館で書き始める怪奇小説。
本格ミステリーとホラーが融合する“作家三部作”の第一作で、幻のデビュー作が文庫化されたという経緯もあります。
作者と作中人物の境界が溶けていく感覚がたまらない。後日譚「西日」まで含めて、ファンには記念碑的な一冊です。
橘ナナミ
自分の名前の原稿が勝手に投稿されてるって、それだけで嫌な汗をかきますね……。竹の向こうに見え隠れする洋館、という舞台も想像しただけで落ち着かないです。
佐藤メバル
その洋館の使い方がうまくて、読み進めるうちに妙に記憶に残るんですよ。本格ミステリーとホラー、どちらの気分のときにも開けるのが強みでね。
同じ作者の刀城言耶シリーズが好きな人なら、こちらが原点だと分かるはずです。書店でも、ミステリー棚とホラー棚の両方から手が伸びる珍しい作家さんでした。
屍鬼(一)
小野不由美 著|新潮社
¥990(税込)
人口わずか千三百、三方を尾根に囲まれ、未だ古い因習とともに生きる外場村が舞台です。猛暑に襲われた夏、山深い集落で三体の腐乱死体が発見され、周囲には獣が蹂躙したかのような肉片が散乱していた。闇夜に越してきた謎の家族と連続する不審死。殺人か、未知の疫病か、それとも——。閉じた村に外から何かが入ってくる構造がじわじわ効いてきます。
こんな人におすすめ
長編ホラーにじっくり浸かりたい人、閉鎖的な土地の因習を描いた物語が好きな人、説明のつかない死をめぐる人間の動きを丁寧に読みたい人に向きます。
良い点
- 閉鎖的な村の恐怖
- 長編でじっくり浸れる
- 人間の側の怖さが濃い
気になる点
- 続きを読む前提の一巻
- 展開はゆっくり
- 登場人物が多い
出版社
新潮社
発売日
2002年02月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「屍鬼」って、題名の時点で覚悟が要りますね。これ、一巻で完結するお話なんですか? 続きがあるなら心の準備をしてから読みたいです。
佐藤メバル
(一)と付いている通り、ここから長い物語が始まります。古い因習が残る土地の閉塞感と、そこに起きる説明のつかない死。
ホラーでありながら、人がどう判断し、どう動くかという部分が丁寧に描かれるので、怪異そのものより人間の側が怖いと感じる読者も多いんですよ。
橘ナナミ
村の外から来た家族……。都会から来た人が田舎で浮く、みたいな生々しさもありそうで余計に怖いです。猛暑っていう設定も、汗ばむ感じがして嫌な予感がします。
佐藤メバル
その季節の作り方も見事でね。書店でも、この作品をきっかけにじっくり読む長編ホラーに目覚めるお客さんが少なくありませんでした。
派手な怪物より、村の空気そのものが怖い。時間をかけて読む価値のある一冊です。
文庫版 姑獲鳥の夏
京極夏彦 著|講談社
¥1,100(税込)
「この世には不思議なことなど何もないのだよ」——古本屋にして陰陽師が憑物を落とし、事件を解きほぐすシリーズの第一弾です。東京・雑司ヶ谷の医院に、娘は20箇月も身籠ったまま、その夫は密室から失踪したという噂が流れる。文士の関口や探偵の榎木津らの推理を超え、噂は意外な結末へ。怪談とミステリーの境界を堂々と歩く、京極堂の文庫初登場です。
こんな人におすすめ
怪異とミステリーの両方を味わいたい人、シリーズの第一弾から順に追いたい人、夏にじっくり読む一冊を探している人、独特の語り口に惹かれる読者に向きます。
良い点
- 怪異と謎解きの融合
- シリーズ第一弾
- 長く愛される代表作
気になる点
- 長編で時間が要る
- 独特の語りに好みが分かれる
- 予備知識なしだと骨が折れる
出版社
講談社
発売日
1998年09月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
京極夏彦さんの「姑獲鳥の夏」、題名が読めなくて検索しちゃいました。これがシリーズの第一弾なんですよね?
佐藤メバル
そう、古本屋にして陰陽師の京極堂が憑物を落とし、事件を解きほぐすシリーズの第一弾です。東京・雑司ヶ谷の医院に流れる噂——娘は20箇月も身籠ったまま、夫は密室から失踪した。
文士の関口や探偵の榎木津らの推理を超えて、噂は意外な結末へ向かいます。怪談とミステリーの境界を堂々と歩く、文庫初登場の一冊です。
橘ナナミ
20箇月も身籠ったままって、その設定だけで気持ち悪いというか、ぐっと来ます。榎木津さんって方は探偵なんですけど、頼りになるんですか?
佐藤メバル
そこは読んで確かめてほしいところ。このシリーズの魅力は解決の仕方そのものにあります。怪異に見えるものを、迷信としてでもなく、科学で片付けるのでもない、独自の理屈で解いていく。
長い物語なので最初は身構えるかもしれませんが、読み終えたときの視界の変わり方は格別です。夏に読みたくなる一冊として長く愛されてきました。
鈍色幻視行 上
恩田陸 著|集英社
¥1,100(税込)
撮影中の事故で三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説『夜果つるところ』、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢が、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫とともに参加します。船上では映画監督、プロデューサー、編集者、漫画家ユニットが取材に応えて語り出す。小説そのものをめぐる謎が、船という閉じた空間で膨らんでいく構成が見事です。
こんな人におすすめ
物語をめぐる物語が好きな人、恩田陸作品を追っている人、船という閉じた舞台のサスペンスを楽しみたい人、読後に考察をしたくなる小説を求める読者に向きます。
良い点
- 物語をめぐる入れ子構造
- 船上の閉じた舞台
- 上下巻で読み応えがある
気になる点
- 上巻のみで物語は続く
- 登場人物が多く混乱しやすい
- じっくり読む時間が必要
出版社
集英社
発売日
2026年06月19日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
恩田陸さんの新作ですよね。「鈍色幻視行 上」、上巻ってことは下巻もあるんですか?
佐藤メバル
上巻なので物語は続きます。三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説と、その著者の謎を追う小説家が、関係者の集うクルーズ旅行に参加する。
船上では映画監督やプロデューサー、編集者、漫画家ユニットが取材に応えて語り出すんです。小説そのものをめぐる謎が、逃げ場のない船の上で膨らんでいく構成が見事でね。
橘ナナミ
呪われた小説の謎を追う小説、っていう入れ子がもう面白そう。しかも船上って逃げ場がないじゃないですか。下巻まで一気に読みたくなります。
佐藤メバル
そこが恩田さんのうまさで、「鈍色」と「夜」の二冊が組み合わさったところに物語が生まれる、という著者の小説作法が凝縮されていると評されている作品です。
次々と現れる新事実と新解釈、そして旅の半ばで梢が覚えるある違和感。読者も一緒に騙される快感がありますよ。
生霊の如き重るもの
三津田信三 著|講談社
¥1,210(税込)
生霊が現れると当人に死の影が指すと恐れられる——奥多摩の旧家・谷生家に伝わる謎の現象を描く表題作をはじめ、全五編を収録した刀城言耶シリーズの第二短編集です。「死霊の如き歩くもの」「天魔の如き跳ぶもの」「屍蝋の如き滴るもの」「顔無の如き攫うもの」と、タイトルだけでもう不穏。揺籃の時代の言耶を短編で味わえます。
こんな人におすすめ
短編から刀城言耶シリーズに入ってみたい人、戦後の旧家を舞台にした怪異譚が好きな人、タイトルからして不穏な怪談を好む人、シリーズを順に追っている読者に向きます。
良い点
- 短編で入りやすい
- タイトルからして不穏
- 学生時代の言耶が読める
気になる点
- 短編で物足りない人も
- 旧家の因習が好みを分ける
- 既読者向けの面もある
出版社
講談社
発売日
2014年07月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「生霊の如き重るもの」……タイトルの漢字が難しすぎませんか。「重る」ってどういう意味なんだろう。
佐藤メバル
いいところに目をつけたね。奥多摩の旧家・谷生家に伝わる、生霊が現れると当人に死の影が指すと恐れられる現象——それを描いた表題作を含む全五編の短編集です。
学生時代の事件簿と言われていて、言耶がその家で不可解な復員兵の死に遭遇する。揺籃の時代の彼を、短編で試せるのがうれしいところです。
橘ナナミ
「屍蝋の如き滴るもの」って、想像しただけで嫌な感じがします。短編集なら入りやすそうですね。長編はまだ勇気が出なくて。
佐藤メバル
そう、そこが入り口としてもいい。戦後の空気と旧家の因習が同時に立ち上がる導入は見事ですよ。書店員時代、三津田さんの棚は怪談好きと本格ミステリー好きが同じ場所に集まる、珍しい一角でした。
長編シリーズが気になっている人にも、まずこの短編集をおすすめしています。
八月の暑さのなかで
金原瑞人 著|岩波書店
¥869(税込)
翻訳家であり翻案も手がける金原瑞人さんが編んだ古典ホラー短編集です。ポーの「こまっちゃった」を翻案で収める一篇から始まり、ハーヴィーの「八月の暑さのなかで」、サキの「開け放たれた窓」、ダールの「お願い」など、英米の名家の短編が並びます。時代を越えて選ばれてきた怖さにまとめて触れられる、贅沢なラインアップです。
こんな人におすすめ
古典ホラーを短編で味わいたい人、英米文学の名品にまとめて触れたい人、夏の夜に一話ずつ読み進めたい人、訳者の選書眼に興味がある人に向きます。
良い点
- 英米の名品をまとめて
- 短編で読み切り
- 翻訳が読みやすい
気になる点
- 古典の文体が好みを分ける
- 派手な恐怖は少なめ
- 収録作の好みにムラ
出版社
岩波書店
発売日
2010年07月14日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
金原瑞人さんって、翻訳でよくお名前を見る方です。この本は、そういう方が選んだホラー短編集なんですか?
佐藤メバル
そう、翻訳家であり翻案も手がける金原さんの編んだ古典ホラー短編集です。ポーの「こまっちゃった」を翻案で収める一篇から始まり、ハーヴィー、サキ、ダール、ダンセイニ、ブラウンらの短編が並びます。
時代を越えて選ばれてきた怖さに触れられる、贅沢なラインアップでね。訳者あとがきまで含めて読みどころです。
橘ナナミ
「開け放たれた窓」って、タイトルからは全然怖くなさそうなのに、サキの名前を聞くと何かありそうな気がしてきます。古典って読むの難しくないですか?
佐藤メバル
翻訳が読みやすく整理されているので、そこは心配いりません。むしろ短いからこそ落ちの切れ味が際立ちます。
「十三階」のような風変わりな話も入っていて、一話ずつ味わう読み方が合いますよ。夏の夜に一本ずつ、なんて楽しみ方がいちばん似合う一冊です。
南から来た男
金原瑞人 著|岩波書店
¥968(税込)
同じく金原瑞人さんによる短編集ですが、こちらはポーの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」の翻案から始まり、ダールの表題作、オー・ヘンリーの「家具つきの部屋」、H.G.ウェルズの「マジックショップ」、ブラッドベリの「湖」など、顔ぶれががらりと変わります。怪奇と幻想、ユーモアの混ざり方も濃い。二冊並べて読むと選書眼が見えてきます。
こんな人におすすめ
幻想文学の入り口を探している人、金原瑞人さんの選書を続けて読みたい人、静かな怖さを好む読者、文学的な短編に慣れたい人に向きます。
良い点
- 幻想文学の名品が並ぶ
- 二冊で選書眼が味わえる
- 静かな怖さが魅力
気になる点
- ホラー度は控えめ
- 古典の文体が好みを分ける
- 短編で物足りない人も
出版社
岩波書店
発売日
2012年07月18日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
この本も金原瑞人さんの短編集なんですね。さっきの『八月の暑さのなかで』とどう違うんですか?
佐藤メバル
同じ岩波書店のシリーズですが、こちらはポーの翻案から始まり、ダールの表題作、オー・ヘンリーの「家具つきの部屋」、ウェルズの「マジックショップ」、ブラッドベリの「湖」など、収録作の顔ぶれががらりと変わります。
怪奇と幻想、ユーモアの混ざり方も濃い。二冊並べて読むと選書眼が見えてきて面白いですよ。
橘ナナミ
二冊並べると違いが見えてくるって、そういう楽しみ方があるんですね。スティーヴンソンの「小瓶の悪魔」なんて、タイトルからしてもう誘惑の話みたいです。
佐藤メバル
そこにフォークナーの「エミリーにバラを一輪」やエリザベス・ボウエンの「悪魔の恋人」も入ってくる。文学的な短編が並ぶので、ホラーというより幻想文学の入り口として読む人も多いです。
怖さの種類が静かなので、夜寝る前に少しずつ読むのが合います。訳者あとがきで選書の理由を確かめるのも楽しいですよ。
サマータイムレンダ2026 未然事故物件
田中靖規 著|集英社
¥660(税込)
小説家・南雲竜之介を伯母に持ち、16歳で飛び級で東京大学に合格した南方波稲が、和歌山から上京して住居を探す。見つけたのは1LDK2.5万円という破格の物件。だがそこは怪奇現象が起きる部屋で——。原作の未来を描くスピンオフで、破格の安さには理由があるという不動産ホラーの王道が効いています。原作を知らなくても読めます。
こんな人におすすめ
原作ファンはもちろん原作を知らない人、ひとり暮らしで物件探しを経験した人、短めの怪奇もので腕試ししたい人、漫画由来の物語を読みたい人に向きます。
良い点
- 短くて一気に読める
- 不動産ホラーの王道
- 原作ファンにも嬉しい
気になる点
- 短めで物足りない人も
- 原作未読だと分からない仕掛けも
- 怪奇現象ものの定番止まり
出版社
集英社
発売日
2022年07月04日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
『サマータイムレンダ』って漫画のスピンオフですよね。小説家の南雲竜之介さんを伯母に持つ高校生……って、この設定だけでかなり気になります。
佐藤メバル
そう、16歳で飛び級で東大に合格した南方波稲が、和歌山から上京して住居を探す。見つけたのは1LDK2.5万円という破格の物件でね。
だがそこは怪奇現象が起きる部屋だった——という物語です。原作の未来を描くスピンオフで、破格の安さには理由があるという不動産ホラーの王道が効いています。原作を知らなくても読めますよ。
橘ナナミ
2.5万円って、それもう理由があるに決まってるじゃないですか。私もひとり暮らしなので、内見のときのあの空気、すごく分かります……。
佐藤メバル
そこは体験のある人が多いでしょうね。実家を離れて物件を探した経験がある人ほど、最初の数ページから嫌な汗をかくはずです。
原作のキャラクターの縁者が主人公という仕掛けもあって、ファンにはうれしい。短めで一気に読めるので、怪奇現象ものの入門にも向いています。
わたしのお人形 怪奇短篇集
瀬川貴次 著|集英社
¥616(税込)
引っ越した大学生のゆかりが、押し入れの天袋から前の入居者のものらしき市松人形を見つけてしまう——表題作はそんな話です。怖がる友人に対し、骨董品好きのゆかりはむしろ興味を抱いてしまう。全七作品を収録した怪奇短篇集で、廃団地を探検する一篇などもあり、恐怖だけではない余韻が残ります。
こんな人におすすめ
短編集を少しずつ読みたい人、人形や団地など身近な題材の怪異が好きな人、ホラー初心者で入り口を探している人、静かな読後感を好む読者に向きます。
良い点
- 全七作品を収録
- 身近な題材が多い
- コンパクトで読みやすい
気になる点
- 派手さは控えめ
- 恐怖より余韻重視
- 人形が苦手な人は注意
出版社
集英社
発売日
2020年07月17日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「わたしのお人形」、表紙からして人形がこっちを見てる……。これ、ホラー人形の話ですか?
佐藤メバル
引っ越した大学生のゆかりが、押し入れの天袋から前の入居者のものらしき市松人形を見つけてしまう——表題作はそんな話です。
怖がる友人に対し、骨董品好きのゆかりはむしろ興味を抱いてしまう。全七作品を収録していて、恐怖だけではない余韻が残るところが、他の怪奇短篇集と違うところですね。
橘ナナミ
廃団地を探検しに行く二十歳過ぎの男たちに小学生が同行するって、それだけでちょっと危ない空気がします……。ホラーって、人形ものは定番なんですか?
佐藤メバル
定番であり、いちばん書き手の力量が出るところでもあります。この短編集は「海の香り」「小さな生き物」「心配しないで」など、振れ幅が広い。
日常のすぐ隣にある不穏を丁寧に拾っていて、読後感はじんわり重いです。コンパクトな造りなので、少しずつ読み進めたい人に向いていますよ。
小さな手 ホラー短編集4
金原瑞人 著|岩波書店
¥836(税込)
W.W.ジェイコブズの「猿の手」をはじめ、カポーティの「ミリアム」、ビアスの「月明かりの道」、スティーヴンソンの「死体泥棒」、キプリングの「子どもたち」など、英米ホラーの傑作八編を収録しています。初訳・新訳も多いオリジナル短編集で、古いものが古びない理由が体感できる。装画を含め、造本からして気合いが入った一冊です。
こんな人におすすめ
古典ホラーの名品をまとめて読みたい人、「猿の手」のような定番から入りたい人、装画や造本から本を選ぶのが好きな人、短編集シリーズを追いたい人に向きます。
良い点
- 古典ホラーの名品
- 初訳・新訳が多い
- 装画も含め造本が良い
気になる点
- 古典の文体が好みを分ける
- グロ描写は控えめ
- 短編集シリーズの一冊
出版社
岩波書店
発売日
2022年01月17日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「猿の手」って聞いたことあります。願いを三つ叶えてくれるけど代償が大きいやつですよね。それが入ってる短編集なんですか?
佐藤メバル
そう、ジェイコブズの「猿の手」をはじめ、カポーティの「ミリアム」、ビアスの「月明かりの道」、スティーヴンソンの「死体泥棒」、キプリングの「子どもたち」など、英米ホラーの傑作八編を収録しています。
初訳・新訳も多いオリジナル短編集で、古いものが古びない理由が体感できる。造本にも気合いが入っています。
橘ナナミ
佐竹美保さんって、児童書の挿絵で見たことある気がします。ホラーだけど、装丁は暗すぎないんですね。キプリングの「子どもたち」ってのも気になります。
佐藤メバル
タイトルからは想像しにくいけれど、そこがまた怖い。このシリーズは重ねるごとに収録作の幅が広がっていて、古典の名品にまとめて触れたい人には効率のいい一冊です。
一編ずつ完結するので電車の中でも読みやすい。書店で「ホラーは苦手だけど古典なら」というお客さんに、真っ先に渡していた棚ですよ。
過去が殺しにやって来る 小池ノクトホラー短編集
小池ノクト 著|少年画報社
¥715(税込)
美咲と両親が23年ぶりに父の故郷・蓮冠町を訪れると、人影がなく役場も廃墟と化していた。そんな中、一家が乗っていた車のタイヤを何者かがパンクさせ、父は追っていく——戦慄のパニックホラーコミックです。文字のホラーとは違う速度で恐怖が迫ってくるのが、この形式の強み。短編として一篇ずつ味わえます。
こんな人におすすめ
活字が苦手でもホラーを楽しみたい人、映像的な恐怖が好みの人、短い単位で一気に読める本を求めている人、漫画で怪談を試したい人に向きます。
良い点
- コミックで読みやすい
- パニックホラーの速度感
- 短編で一気に読める
気になる点
- 活字のホラーを求める人には不向き
- 絵の好みが分かれる
- 短めで物足りない人も
出版社
少年画報社
発売日
2022年07月25日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これ、小説じゃなくてコミックなんですね? 23年ぶりに父の故郷を訪れたら町に人影がなくて役場も廃墟って、もうその時点で怖いんですけど。
佐藤メバル
そう、ホラーコミックです。美咲と両親が23年ぶりに蓮冠町を訪れると、人影がなく役場も廃墟と化していた。
そんな中、一家の車のタイヤを何者かがパンクさせ、父が追っていく——という戦慄のパニックホラーでね。文字のホラーとは違う速度で恐怖が迫ってくるのが、この形式の強みです。
橘ナナミ
確かに、絵で見せられると逃げ場がない感じがします。父がタイヤを追っていくところで、もう帰ってこないんじゃないかって勝手に想像しちゃいました。
佐藤メバル
その想像が当たっているかは読んでのお楽しみ。短編集の形なので、一篇ごとに違う恐怖を味わえます。活字が苦手な人や、ホラーを映像で慣れている人にも取りつきやすい。
書店でも、小説コーナーとコミックコーナーの間を行き来するお客さんが多かったジャンルです。導入の一冊として使いやすいですね。
魍魎回廊
千街晶之 著|朝日新聞出版
¥935(税込)
雨の日に現れる喪服の女、地方の風習に隠された秘密、鬼の定義を追求する男、蘇る忌まわしき前世の記憶——。恐怖と怪奇が支配する世界と、謎解きが絶妙に絡み合うアンソロジーです。怪奇現象をミステリーの手つきで紐解く構成が持ち味で、ホラー界の巨匠たちがそれぞれの方法で怪異に挑んでいます。
こんな人におすすめ
ホラーとミステリーの橋渡しを探している人、アンソロジーで好みの作家を見つけたい人、怖さと謎解きの両方を楽しみたい人、短編で頭を使いたい読者に向きます。
良い点
- ホラーとミステリーの融合
- 巨匠たちの競演
- 謎解きの手応えがある
気になる点
- ホラー度は作品ごとに差
- アンソロジーで好みのムラ
- 短編で物足りない人も
出版社
朝日新聞出版
発売日
2022年03月07日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「魍魎回廊」って、編者が千街晶之さん……この方はホラー評論の方ですか? アンソロジーなんですよね。
佐藤メバル
そう、ホラーとミステリーが絶妙に絡み合うアンソロジーです。雨の日に現れる喪服の女、地方の風習に隠された秘密、鬼の定義を追求する男、蘇る前世の記憶——恐怖と怪奇の世界と、謎解きが交差する。
怪奇現象をミステリーの手つきで紐解く構成が持ち味で、巨匠たちがそれぞれの方法で挑んでいます。
橘ナナミ
ホラーとミステリーのいいとこ取りってことですか。怖いだけじゃなくて、ちゃんと「なぜ」が用意されている方が安心して読める気がします。
佐藤メバル
それだと思う。ホラーが苦手な人でも、謎が解けていく手応えがあると読み進められる。逆にミステリー好きが、説明のつかない何かに出会ってしまう。
この二つを橋渡しするアンソロジーは貴重で、書店ではホラー棚とミステリー棚のちょうど境目に置いていました。
好みの作家から入るのもいいですよ。
女之怪談
花房観音 著|角川春樹事務所
¥660(税込)
ホラー作家としても強烈な個性を持つ三人の女性作家が集まった実話系怪談集です。病院で再会した女友だちが撮った写真に写るもの、作家という職業に憧れて寄ってくる女たちの執念、飲み屋で聞いた二つの殺人がリンクする恐怖など、心霊と狂気、妄想と現実のハザマで情念が絡んでいく。女たちの情念が主題として貫かれています。
こんな人におすすめ
実話系怪談が好きな人、女性作家の情念的なホラーを読みたい人、日常の延長にある恐怖を味わいたい人、身近な題材からぞっとしたい読者に向きます。
良い点
- 実話系の生々しさ
- 女性作家三人の競演
- 身近な題材が多い
気になる点
- 情念の描写が重い
- 苦手な人は注意
- 短編で好みのムラ
出版社
角川春樹事務所
発売日
2015年08月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「女之怪談」、これ実話系の怪談なんですか? 病院で再会した女友だちが撮った写真に写るもの……って、もう嫌な予感しかしません。
佐藤メバル
ホラー作家としても強烈な個性を持つ三人の女性作家が集まった実話系怪談集です。川奈まり子さんの「ひよみのとりおにをんな」、花房観音さんの「生霊に脅える女」、岩井志麻子さんの「消えた女の研究と消した女の実験」など、心霊と狂気、妄想と現実のハザマで情念が絡んでいく。
女たちの情念が貫かれている点が他と違います。
橘ナナミ
作家さんご本人が体験した話なんですか? だとしたら書くのも怖そう……。花房観音さんって、そういう小説の方なんですね。
佐藤メバル
実話系として編まれているので、そこは読んで確かめてほしいところ。飲み屋で聞いた二つの殺人がリンクする話など、じっとり湿度の高い恐怖が続きます。
ホラーと官能のあわいを扱う作家が揃っているので、単に驚かせるだけの怪談とは質が違う。合コンや友人の写真といった身近な題材から入るのが、かえって効きますよ。
文庫版 今昔続百鬼 雲
京極夏彦 著|講談社
¥1,210(税込)
岸涯小僧、泥田坊、手の目、古庫裏婆——日本の妖怪や怪異をめぐる短編が並ぶ一冊です。多々良先生行状記として収録されています。京極夏彦さんの怪異への眼差しと、荒俣宏さんの博物学的な視点が重なることで、妖怪を実在したものとして読むような面白さが生まれます。短編としても噛みごたえがあります。
こんな人におすすめ
妖怪や怪異の古典に親しみたい人、京極作品の入り口を探している人、夏に怪談をまとめて読みたい人、短編で日本の民俗に触れたい読者に向きます。
良い点
- 妖怪の知識が深まる
- 短編で読み切り
- 京極作品の入り口
気になる点
- 古典寄りで好みを分ける
- 怪談としての怖さは控えめ
- シリーズの途中の一冊
出版社
講談社
発売日
2006年06月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
京極夏彦さんと荒俣宏さんのお名前が並んでる……これ、どういう本なんですか? 「今昔続百鬼」って、百鬼夜行みたいな。
佐藤メバル
岸涯小僧、泥田坊、手の目、古庫裏婆——日本の妖怪や怪異をめぐる短編が並ぶ一冊で、多々良先生行状記として収録されています。
京極さんの怪異への眼差しと、荒俣さんの博物学的な視点が重なることで、妖怪を実在したものとして読むような面白さが生まれます。短編としても噛みごたえがありますよ。
橘ナナミ
泥田坊も手の目も、聞いたことはあるけど説明はできないですね。これを読むと妖怪に詳しくなれるんでしょうか。
佐藤メバル
詳しくなるというより、怪異の扱い方が分かるようになる。書店員時代、妖怪や怪談の本は夏に動くので、こうした古典寄りの一冊は棚の核にしていました。
読んでいると、岸涯小僧や古庫裏婆の話が意外な方向へ転がっていく。京極作品の入り口としても使いやすいですよ。
失はれる物語
乙一 著|KADOKAWA
¥1,122(税込)
事故で全身不随となり、触覚以外の感覚を失った「私」。ピアニストである妻は私の腕を鍵盤代わりに「演奏」を続ける。絶望の果てに下した選択とは——。珠玉の七作品に書き下ろしの「ウソカノ」を加えた短編集です。乙一さんの作品は恐怖と切なさが同じ場所にあり、怖いのに泣けるという独特の読後感があります。
こんな人におすすめ
短編で切なさと恐怖の両方を味わいたい人、乙一作品をまだ読んでいない人、読後に長く余韻が残る本を求めている人、一篇ごとに違う切り口を楽しみたい読者に向きます。
良い点
- 短編七編と書き下ろし
- 切なさと恐怖が同居
- 一篇ごとに切り口が違う
気になる点
- 読後感は重い
- 救いが少ない話もある
- 明るい話は少なめ
出版社
KADOKAWA
発売日
2006年06月24日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
乙一さんの短編集なんですね。事故で全身不随になって、ピアニストの妻が腕を鍵盤代わりに演奏する……って、その設定だけで胸が痛いんですけど。
佐藤メバル
その一篇をはじめ、珠玉の七作品に書き下ろしの「ウソカノ」を加えた短編集です。触覚以外の感覚を失った「私」が、絶望の果てに下す選択とは——。
乙一さんの作品は恐怖と切なさが同じ場所にあって、怖いのに泣けるという独特の読後感があります。
ホラー短編として読むと、痛みの描き方が際立ちます。
橘ナナミ
「ウソカノ」ってタイトルだけ見ると普通の恋愛ものみたいなのに、この並びに入ると意味が変わって見えますね。全部読んだら少し落ち込みそうです。
佐藤メバル
落ち込むかもしれないけど、それだけ記憶に残るということでもあります。長編のイメージが強い作家さんですが、短編だと一篇ごとの切り口がはっきりしている。
救いのなさと美しさが同居する作品が好きな人に合いますよ。書店では、乙一さんの棚は若い読者がじっくり選んでいく、いちばん静かな一角でした。
今夜は眠れない
宮部みゆき 著|KADOKAWA
¥990(税込)
中学一年でサッカー部の「僕」。両親は結婚15年目、ごく普通の平和な我が家に、謎の人物が母さんへ5億もの財産を遺贈したことで生活が一変します。家族の絆を取り戻すため、僕は親友の島崎と真相究明に乗り出す——という物語です。普通の家族が壊れていく過程を、子どもの視点で追うのが読みどころです。
こんな人におすすめ
ホラーが苦手でも読める一冊を探している人、家族をめぐる物語が好きな人、少年の視点で謎を追う話を読みたい人、宮部作品を子どもと一緒に楽しみたい人に向きます。
良い点
- 子ども視点で読みやすい
- ホラー入門にも
- 家族の物語としても読める
気になる点
- 怪異は控えめ
- ホラーを求める人には物足りない
- 時代を感じる面もある
出版社
KADOKAWA
発売日
2002年05月24日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
宮部みゆきさんの「今夜は眠れない」、これってホラーっていうよりミステリーな気がするんですけど、どうなんですか?
佐藤メバル
中学一年でサッカー部の「僕」の家に、謎の人物が母さんへ5億もの財産を遺贈したことで生活が一変する。家族の絆を取り戻すため、僕は親友の島崎と真相究明に乗り出す——という物語です。
怪異というより、普通の家族が壊れていく過程が怖い。ホラーというより、日常がずれていく話として読むとよく効きます。
橘ナナミ
5億の遺贈って、普通なら喜ぶところなのに、家族の絆を取り戻すために真相を探すって、ろくな話じゃないのがもう分かります……。
佐藤メバル
そこが宮部さんのうまさでね。怖いのは怪異ではなく、身近な人が変わっていくことかもしれない、と思わせてくれる。
少年が親友と一緒に真実へ近づいていく姿には、読んでいて力づけられるところもあります。子ども時代の視点で読むと、なおさら効いてきますよ。
無音 忌み語を紡ぐ町
櫛木理宇 著|集英社
¥2,090(税込)
那月が14年ぶりに帰ってきたD県十櫃町には、たがい違い、アカンボ、くっつく、そしてタカシマサキ——忌み語が多い。中学時代の同級生・鷹島咲の名も忌み語のひとつで、彼女の死を皮切りに原因不明の自殺が続いた。土地に染みついた言い伝えが、帰ってきた女を追い詰めていきます。再婚相手の名字で娘の名が「タカシマサキ」になったことも重なり——。
こんな人におすすめ
じっとり重いホラーを読みたい人、地域の言い伝えを題材にした物語が好きな人、心理的な圧に耐える覚悟のある読者、櫛木理宇作品を追っている人に向きます。
良い点
- 言い伝えの恐怖が濃い
- 現実の重さも描く
- 長編で読み応えがある
気になる点
- 重い内容が続く
- 心理的にきつい場面がある
- じっくり読む時間が必要
出版社
集英社
発売日
2026年08月05日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「無音 忌み語を紡ぐ町」、タイトルからしてもう不穏なんですけど、「忌み語」ってなんですか?
佐藤メバル
口にしてはいけない言葉、という意味で使われています。14年ぶりに帰ってきた十櫃町には、たがい違い、アカンボ、くっつく、そしてタカシマサキ、といった忌み語が多い。
中学時代の同級生の名もそのひとつで、彼女の死を皮切りに原因不明の自殺が続いた。土地に染みついた言い伝えが、帰ってきた女を追い詰めていきます。
橘ナナミ
再婚相手の名字で、娘の名前が「タカシマサキ」になっちゃった……って、そこで地元の忌み語と重なるの、嫌すぎます。
あの声が今でも聞こえる、っていうのも怖いです。
佐藤メバル
そこがこの作品の重心でね。迷信だと思おうとしても、娘の異様な言動が増え、笑顔が消えていく。夫の不在、母の呪詛、元夫のモラハラの記憶——呪いだけでなく、現実の重さが多重に重なるのが、ただの怪談で終わらせない強さです。
時間をかけて読む覚悟のある人ほど、刺さりますよ。
祟られ屋・黒染十字 その呪い、引き受けます
敷島シキ 著|KADOKAWA
¥682(税込)
お人よしカウンセラー・白崎真人の元に、痩せ細った女性患者が訪れ、不穏な呪いの言葉を残して去る。その夜、床を蛇のように這いずり回る化け物を見た白崎は、どんな祟りも祓うと評判の「祟られ屋」黒染十字を訪ねる——という謎解きホラーミステリです。美形なのに変人な黒染に巻き込まれ、一緒に祟りの元凶を探すことになります。
こんな人におすすめ
キャラクターもののホラーが好きな人、祟りや呪いを扱う謎解きを読みたい人、シリーズの一冊目として手に取りたい人、挿絵のある小説を楽しみたい読者に向きます。
良い点
- キャラクターが魅力的
- 章ごとに事件が進む
- イラスト付きで読みやすい
気になる点
- ライト寄りに感じる人も
- シリーズ前提の面もある
- ホラー度はやや控えめ
出版社
KADOKAWA
発売日
2020年09月24日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「祟られ屋・黒染十字」、祟りを有償で引き受けるって商売なんですか? 名前からして濃いですね……ライトな匂いも感じるんですが。
佐藤メバル
お人よしカウンセラー・白崎真人の元に、痩せ細った女性患者が訪れ、不穏な呪いの言葉を残して去る。その夜、床を蛇のように這いずり回る化け物を見た白崎は、古今東西の呪術に精通し、どんな祟りも祓うと評判の「祟られ屋」黒染十字を訪ねるんです。
美形なのに変人な黒染に巻き込まれ、一緒に祟りの元凶を探すことになる。
橘ナナミ
美形で変人って、そういうキャラクターは強いですね。カウンセラーとコンビを組むんですか。祟りを引き受けるって発想が新しいです。
佐藤メバル
第一章「キレイさまが憑いてくる」から最終章まで、章ごとに事件が積み上がっていく構成です。鈴木次郎さんのイラストも入って、読みやすさと不気味さのバランスがいい。
祟りを引き受けるという発想が新しいので、怪異ものに食傷気味の人にも刺さりますよ。少しずつ読み進めるのに向いた一冊です。
憑き御寮 よろず建物因縁帳
内藤了 著|講談社
¥836(税込)
広告代理店勤務の高沢春菜が、博物館展示の視察でかつての豪商・藤沢本家を訪れる。屋敷では二人の職人が帯締めや振り袖を首に巻き付け不審死を遂げていた。春菜は因縁物件専門の曳き屋・仙龍に相談するが、そこには彼の父すら祓えなかった呪いがあった——。建物に残る因縁を扱うシリーズの一冊です。
こんな人におすすめ
建物や土地の因縁を描いた怪異譚が好きな人、ホラーに恋の要素も欲しい人、章立てで読み進めたい人、内藤了作品のシリーズを楽しみたい読者に向きます。
良い点
- 因縁物件という題材
- 恐怖と恋の両方
- 章立てで読みやすい
気になる点
- 恋の要素が好みを分ける
- 怪異描写は控えめ
- シリーズの途中の一冊
出版社
講談社
発売日
2018年01月24日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「憑き御寮 よろず建物因縁帳」、因縁物件専門の曳き屋さんが出てくるんですか? 家の話なんですよね。
佐藤メバル
広告代理店勤務の高沢春菜が、博物館展示の視察でかつての豪商・藤沢本家を訪れる。屋敷では二人の職人が帯締めや振り袖を首に巻き付け不審死を遂げていた。
春菜は因縁物件専門の曳き屋・仙龍に相談するが、そこには彼の父すら祓えなかった呪いがあった——。建物に残る因縁を扱うシリーズの一冊です。
橘ナナミ
職人の死に顔が笑っていた、っていうのが一番ぞっとします。しかも恋敵は怨霊って、怪異と恋が同時に進むんですか? そこはちょっと意外です。
佐藤メバル
そこがこのシリーズの面白さでね。仙龍は自らの命を賭して『死の花嫁』にとんでもない奇策を仕掛ける。其の三「忍び門ノ怪」、其の四「憑き物筋と狐憑き」、其の七「見立て祝言」と章ごとに因縁が積み重なります。
恐怖と恋の怪異譚として読めるので、ホラーが苦手な人にも案外入りやすいですよ。
ポー短編集 黒猫
にかいどう青 著|ポプラ社
¥1,760(税込)
ポーを敬愛する作家・にかいどう青さんの文章で、ポーの代表作を届ける一冊です。「黒猫」「ウィリアム・ウィルソン」「赤死病の仮面」「アモンティリャードの樽」「落とし穴とふり子」、そして詩「ひとり」の六編を収録。ヴェルヌから江戸川乱歩まで世界中の作家に影響を与えたゴシックホラーの原点をここから確かめられます。
こんな人におすすめ
ポーをはじめて読む人、ゴシックホラーの原点に触れたい人、装画や造本から本を選ぶのが好きな人、古典を読みやすく味わいたい読者に向きます。
良い点
- ポーの代表作を収録
- 詩から短編まで幅広い
- 装画を含め読みやすい
気になる点
- ポー既読者には重複も
- 古典の文体が好みを分ける
- 編訳の好みが分かれる
出版社
ポプラ社
発売日
2024年02月07日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
ポーの「黒猫」ってすごく有名ですよね。これはにかいどう青さんが書かれたんですか? 訳なのか再話なのか、そこが気になります。
佐藤メバル
ポーを敬愛する作家・にかいどう青さんの文章で、ポーの代表作を届ける一冊です。「黒猫」「ウィリアム・ウィルソン」「赤死病の仮面」「アモンティリャードの樽」「落とし穴とふり子」、そして詩「ひとり」の六編を収録。
ポーはヴェルヌから江戸川乱歩まで影響を与えました。ゴシックホラーの原点を確かめられますよ。
橘ナナミ
「アモンティリャードの樽」も聞いたことあります。古典って難しそうなイメージでしたけど、新しく書かれているなら読みやすそうですね。
佐藤メバル
そこがこの本の狙いでね。ポーは詩人であり批評家であり編集者でもあった人で、その多面性が短編の幅になっています。
ゴシックホラーだけでなく、推理小説やSFの起源にも触れられる。スカイエマさんの装画も含めて、はじめてのポーとしても、読み返す一冊としても使えますよ。
百物語(第4夜)
平谷美樹 著|角川春樹事務所
¥638(税込)
著者のもとに続々と寄せられる怪異現象を綴った実話系怪談集の第四弾です。体験者の霊能ゆえなのか、単なる思い込みなのか——だがこれだけは信じてもらいたい、それらはいずれもほんとうに起きたことばかりなのだ、という語り口が貫かれています。信じるかどうかは読者次第という距離感が、かえって効いてきます。
こんな人におすすめ
実話怪談を寝る前に少しずつ読みたい人、シリーズの途中からでも入りたい人、巻末の対談まで楽しみたい人、短い単位で読める本を探している読者に向きます。
良い点
- 実話怪談を一話ずつ
- 巻末に対談も収録
- シリーズ途中からでも
気になる点
- 単独作としての印象は薄い
- 信じるかどうかで評価が分かれる
- 短編で好みのムラ
出版社
角川春樹事務所
発売日
2005年07月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「百物語(第4夜)」……第4夜ってことはシリーズの4冊目ですよね。途中から読んでも大丈夫なんですか?
佐藤メバル
大丈夫、一話ずつ独立した実話系の怪談を集めた形です。著者のもとに続々と寄せられる怪異現象を綴ったもので、体験者の霊能ゆえなのか、単なる思い込みなのか——だがこれだけは信じてもらいたい、いずれもほんとうに起きたことばかりなのだ、という語り口が貫かれています。
信じるかどうかは読者次第という距離感が効いています。
橘ナナミ
「ほんとうに起きたことばかり」って言い切られると、逆に読みながら辺りを見回しちゃいそうです。巻末の対談も気になります。
佐藤メバル
巻末には大迫純一さんとの怪奇対談も収録されていて、ここがまた読みどころです。短い話が続くので、寝る前に一話ずつ、という読み方が定番。
読み終えたあと、あなたの周りにも「何か」が見えてくるかもしれない——という締めの一文が、このシリーズの体温をよく表しています。
実話怪談の入り口としても長く読まれてきました。
最恐ホラー 嫌な記憶
貴志祐介 著|講談社
¥1,100(税込)
小説現代のホラー特集を画期的な形式でまとめた企画の第三弾で、テーマは「記憶」です。貴志祐介さんの「薔薇の小枝」は、世界的画家ペトルーシンがサイン代わりに描くこま絵をめぐる話。熱烈なコレクターのドルフマンが、画家本人すら知らない由縁を解き明かそうと、fMRIの模様を配信する——記憶を覗く行為そのものが恐怖になっていきます。
こんな人におすすめ
現代的な恐怖を短編で味わいたい人、貴志祐介作品を追っている人、テーマ別アンソロジーで作家を比べたい人、全六シリーズを通しで読みたい読者に向きます。
良い点
- 二作の対比が鮮やか
- テーマ別で読みやすい
- 現代的な恐怖が味わえる
気になる点
- 全六シリーズの一冊
- 短編で物足りない人も
- シリーズを通しで読みたくなる
出版社
講談社
発売日
2026年04月30日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「最恐ホラー 嫌な記憶」って、これシリーズの第三弾なんですね。1テーマに2人で12作、全6シリーズって、どういう形式なんですか?
佐藤メバル
小説現代のホラー特集を画期的な形式でまとめた企画で、第三弾のテーマは「記憶」です。貴志祐介さんの「薔薇の小枝」は、世界的画家ペトルーシンがサイン代わりに描くこま絵をめぐる話。
熱烈なコレクターのドルフマンが、画家本人すら知らない由縁を解き明かそうと、fMRIの模様を配信する——記憶を覗く行為そのものが恐怖になっていきます。
橘ナナミ
fMRIって、脳の活動を画像で見るやつですよね。それを配信しちゃうって、なんだか現代的な怖さだなあ。もう一つの荻堂顕さんのお話は?
佐藤メバル
荻堂顕さんの「火中の栗」は、曰くつきの山へ肝試しに行く男子中学生の一行が、その最中にA山が目を怪我してしまう話です。
深夜に出歩いたことを親や学校には言えない、ましてや失明させたなんて言えない——その焦りが彼らを異常にさせていく。
隠したいという心理が異常を加速させる。短いながら二作の対比が鮮やかで、シリーズ全体を追いたくなる一冊です。
2026年のホラーの「いま」——新刊・アンソロジー・モキュメンタリー
橘ナナミ
2026年は新刊ラッシュだと聞きました。何が出ているんですか?
佐藤メバル
夏に集中しているのが今年の特徴だね。4月に貴志祐介さんと荻堂顕さんが「記憶」というテーマで書き下ろした『最恐ホラー 嫌な記憶』、6月に恩田陸さんの『鈍色幻視行 上』、8月に櫛木理宇さんの『無音 忌み語を紡ぐ町』。『最恐ホラー』は1テーマに2人が書く全6シリーズの第三弾で、同じテーマからまったく違う怖さが出てくるのが見どころだ。
橘ナナミ
アンソロジー企画も当たり年ですか?
佐藤メバル
2025年の『祠破壊ホラー小説アンソロジー』がいい例で、「祠が破壊される場面を含む」という依頼に7名が応えている。2024年の『堕ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー』のような全編書き下ろしも増えた。企画の力で作家を動かす流れが、いまのホラーの勢いそのものだね。
橘ナナミ
モキュメンタリーという言葉もよく見ます。
佐藤メバル
フィクションなのに、記録・手記・インタビューの体裁で「本当にあったこと」のように語る形式だ。小説でその手法を使う作品は増えているけれど、最も近い入口は実話系怪談で、平谷美樹『百物語(第4夜)』や、川奈まり子・花房観音らによる『女之怪談』のように体験談として編まれた本から入ると感覚がつかめる。
翻訳ホラーと賞レース——外から見る、系譜で見る
橘ナナミ
海外のホラーは、やっぱり英米が中心なんですか?
佐藤メバル
本記事で挙げている翻訳の柱は英米の古典だ。『八月の暑さのなかで』にはポー、サキ、ダール、ブラッドベリ、『南から来た男』にはオー・ヘンリーやフォークナー、『小さな手 ホラー短編集4』にはジェイコブズ、カポーティ、キプリングが並ぶ。短編集は翻訳ホラーの“試着室”なんだ。書店員時代、翻訳の棚は英米が中心だったけれど、近年は北欧や韓国、ラテンアメリカの作品を尋ねられることも増えた。地域が広がると怖さの作法も変わるのが面白い。
橘ナナミ
『このホラーがすごい!』も毎年見かけます。
佐藤メバル
国内編と海外編に分けて、その年のベストを選ぶガイドだ。選ぶ立場によって結果が動くから、書店のランキングと突き合わせると、評論家が推す作品と読者が手に取る作品のズレが見えてくる。最新版の詳しい順位は本編で確かめてほしいけれど、本記事のランキングと並べて読むと、指標ごとの違いがはっきりするよ。
橘ナナミ
賞から入る読み方もあるんでしょうか?
佐藤メバル
あるよ。櫛木理宇さんは『ホーンテッド・キャンパス』で第19回日本ホラー小説大賞の読者賞を受け、同じ年に別の新人賞も受けてデビューした。賞の系譜をたどると、その時代が何を怖いと思っていたかが見えてくる。恩田陸さんもデビュー作が日本ファンタジーノベル大賞の最終候補で、のちに『夜のピクニック』『蜜蜂と遠雷』と受賞を重ねてきた。ホラーの書き手が他のジャンルの賞と行き来しているのも、近年の特徴だね。
読む順番と、実用データの整え方
橘ナナミ
テーマで横に探すなら、どんな切り口がありますか?
佐藤メバル
因習の村なら『屍鬼』の外場村と『無音 忌み語を紡ぐ町』の十櫃町。因縁のある建物なら『憑き御寮』と『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』。人形なら『わたしのお人形』、学校や青春なら『今夜は眠れない』『むかさり』『生霊の如き重るもの』。同じテーマで並べると、作家ごとの仕掛け方の違いが手に取るようにわかる。
橘ナナミ
シリーズ物は、どこから読めばいいんでしょう?
佐藤メバル
京極堂シリーズは『姑獲鳥の夏』が第1弾だから、そこから。三津田信三さんは流れが二つあって、『忌館 ホラー作家の棲む家』は“作家三部作”の第一作、『生霊の如き重るもの』は刀城言耶シリーズの第二短編集だから、先に第一短編集を読むと来歴がつながる。『憑き御寮』や『祟られ屋・黒染十字』はシリーズの一冊として読めるし、『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』は本編のスピンオフだから、元の物語を知っているほど効く。
橘ナナミ
価格やページ数も、やっぱり見ておくべきですか?
佐藤メバル
見ておいてほしい。文庫の短編集と単行本の長編では、持ったときの重さも読了までの日数もまったく違う。電子書籍やオーディオブックの有無で読む時間帯も変わる。レビューを見るときは星の数より「どんな怖さだったか」を書いている人を探すといい。ホラーは好みの振れ幅が大きいジャンルで、高評価が自分に効くとは限らないからね。
よくある質問
2026年最新のホラー小説で、まず読むべき1冊はどれですか?
橘ナナミ
2026年最新のホラー小説で、まず読むべき1冊はどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
迷ったら短編集から始めるのがおすすめです。吉田珠姫『むかさり』や『堕ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー』なら、1冊で複数の作家の怖さを試せるので、自分の好みが最短で分かります。今年の空気を先に掴みたいなら、2026年6月刊の恩田陸『鈍色幻視行 上』や、8月刊の櫛木理宇『無音 忌み語を紡ぐ町』を手に取ってみてください。
ホラーが苦手な初心者でも読める入りやすい作品はありますか?
橘ナナミ
ホラーが苦手な初心者でも読める入りやすい作品はありますかについて教えてください。
佐藤メバル
あります。金原瑞人さんの訳・翻案で編まれた『八月の暑さのなかで』『南から来た男』は、ポーやダール、ブラッドベリらの短編を1編ずつ味わう形で、怖さの“一口サイズ”から慣れられます。もう少し物語を追いたくなったら、少年が家族の謎を追う宮部みゆき『今夜は眠れない』が入りやすいです。
モキュメンタリーホラーとは何で、代表的な作品はどれですか?
橘ナナミ
モキュメンタリーホラーとは何で、代表的な作品はどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
フィクションでありながら、手記・記録・インタビューの体裁で「実際に起きたこと」のように語る形式を指します。小説として意識的に使う作品は近年増えていますが、形式の原型に近いのは実話系怪談で、平谷美樹『百物語(第4夜)』や、川奈まり子・花房観音らによる『女之怪談』が最も近い入口です。
『このホラーがすごい!2026年版』国内編1位はどの作品ですか?
橘ナナミ
『このホラーがすごい!2026年版』国内編1位はどの作品ですかについて教えてください。
佐藤メバル
同書は国内編と海外編に分けて、その年のベストを選ぶホラーのガイドブックです。順位は版ごとに変わり、選ぶ立場によっても結果が動くため、確定した1位は同書の最新版で確認するのが確実です。本記事では、その結果と書店ランキングや読者評価を突き合わせて、指標ごとのズレを紹介しています。
海外のホラー小説で翻訳されているおすすめはありますか?
橘ナナミ
海外のホラー小説で翻訳されているおすすめはありますかについて教えてください。
佐藤メバル
英米の古典が特に充実しています。『八月の暑さのなかで』にはポー、サキ、ダール、『南から来た男』にはオー・ヘンリーやフォークナー、ブラッドベリ、『小さな手 ホラー短編集4』にはジェイコブズやカポーティ、キプリングが並びます。ポーの代表作をまとめて味わうなら、にかいどう青の文章で編まれた『ポー短編集 黒猫』も最初の一冊に向いています。
映画化・ドラマ化されたホラー小説の原作はどれを読めばいいですか?
橘ナナミ
映画化・ドラマ化されたホラー小説の原作はどれを読めばいいですかについて教えてください。
佐藤メバル
映像化原作は、映像で先に知った物語を文字で読み直す楽しみがあります。本ランキングでは、田中靖規『サマータイムレンダ2026 未然事故物件』が本編のスピンオフで、元の物語を知っている人ほど仕掛けが効きます。また恩田陸『鈍色幻視行 上』は、映像化が三たび頓挫した小説をめぐる物語そのものを描いており、映像化という現象を考えさせられます。
絶版・入手困難なホラー小説はありますか?電子書籍で読めますか?
橘ナナミ
絶版・入手困難なホラー小説はありますか?電子書籍で読めますかについて教えてください。
佐藤メバル
年数の経った短編集やアンソロジーには、重版待ちや絶版になっているものもあります。一方、京極夏彦『姑獲鳥の夏』や『今昔続百鬼 雲』のように文庫で長く刷られ続けている本は入手しやすいです。電子書籍やオーディオブックの有無は書誌情報で必ず確認し、まず図書館で試すという手も使ってください。
短時間で読める短編集と、じっくり読む長編はどちらがおすすめですか?
橘ナナミ
短時間で読める短編集と、じっくり読む長編はどちらがおすすめですかについて教えてください。
佐藤メバル
目的で選ぶのがいちばんです。通勤や寝る前に1話ずつなら『わたしのお人形』『小さな手 ホラー短編集4』『祠破壊ホラー小説アンソロジー』などの短編集。世界に沈みたいなら小野不由美『屍鬼』や恩田陸『鈍色幻視行』のような長編が向きます。没入感は長編、発見は短編集と覚えておくと選びやすいです。
まとめ
橘ナナミ
ここまで読んで、最初の1冊をどう選ぶか、だいぶ見えてきました。
佐藤メバル
よかった。最後にもう一度だけ言うと、ホラーは強い順に読む必要はないんだ。いちばん怖い本から始めなくていい。
橘ナナミ
私みたいに怖がりでも、入り口があるんですね。
佐藤メバル
あるよ。短編集で一口ずつ味わって、少し慣れたら長編に沈む。『むかさり』のように切なさが残るもの、『今夜は眠れない』のように少年が謎を追うもの、『魍魎回廊』のように謎解きと怪奇が絡むもの。好みが分かったら、次は同じ怖さの種類で横に広げていけばいい。
橘ナナミ
積読の山も、怖さの棚に並べ替えたら楽しくなりそうです。
佐藤メバル
ホラー小説は、灯りを消した部屋で蝋燭を一本ともすのに似ている。明るさは自分で選べるし、消すのも自分だ。いきなり全部の灯りを落とす必要はない——まずは小さな炎から、この夏を始めてみてほしい。
