時代小説シリーズもの本のおすすめ人気ランキング25選【2026年版】
監修

佐藤メバル
@shelfy_mebaru
編集長。あらゆるジャンルの本を年間数百冊読み込む本のプロ。投資・経営から小説・実用書・絵本まで、良書と読者の相性を見抜く。

橘ナナミ
@medias_nanami
編集部の新人インターン。22歳の大学院生で、メディア論を研究中。「それ気になります!」が口癖の天然キャラ。読者の素朴な疑問を代弁する役割で、各メディアの専門家にいろんなジャンルの素朴な質問をぶつけていく。
最終更新: 2026年10月
橘ナナミ
佐藤さん、時代小説のシリーズって棚にいっぱいあって、どれも同じに見えるんです。しかも「第八弾」「第十八弾」なんて書いてあると、途中から入っていいのか分からなくて。
佐藤メバル
いい質問だね。まずそこを整理しよう。実在の人物や事件を軸に描くものを歴史小説、江戸の町や長屋の暮らしと事件を描くものを時代小説、と分けて語られることが多い。この記事で扱うのは後者寄り——市井の稼業と事件を追うシリーズだね。
橘ナナミ
なるほど! たとえば『新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一)』は、表の顔は鍼医師で、裏では「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」を葬る仕掛人なんですよね。怖いのに人間味があるって紹介されていて、すごく気になりました。
佐藤メバル
そう。で、さっきの「第八弾問題」だけど、これは1話完結度で答えが変わる。『隠密 味見方同心(五) フグの毒鍋』は四話それぞれが独立した短編で、料理にまつわる事件が一話ずつ片づく。このタイプは途中の巻からでも入れる。
橘ナナミ
じゃあ、成立するシリーズと、一巻から積んだほうがいいシリーズがあるんですね。選び方の軸を教えてください!
時代小説シリーズもの本の選び方
目的別:通勤の短時間で読む/休日にどっぷり浸かる
橘ナナミ
通勤中の十五分で読みたいときは?
佐藤メバル
短編の区切りがはっきりしたシリーズだね。『隠密 味見方同心』は「馬鹿弁当」「フグの毒鍋」のように一話ずつ決着がついて次に持ち越さない。逆に休日にどっぷり浸かるなら、北方謙三『楊令伝 1 玄旗の章』——梁山泊陥落から三年、散った同志たちが結集の秋を待つ長い物語は、腰を据えて読むタイプだ。
形式別:1話完結型・連作短編型・長編連作型
橘ナナミ
形式って、どう見分けるんですか?
佐藤メバル
目次を見るのがいちばん早い。『新装版 はやぶさ新八御用帳(十) 幽霊屋敷の女』は「江戸の盆踊り」「郁江の危機」など六編収録の連作短編。諸田玲子『狸穴あいあい坂』も、隠密廻り・妻木と麻布狸穴界隈の事件を一話ずつ解く連作だ。長編連作型なら『酔いどれ小籐次留書 政宗遺訓』のように「謎が謎を呼ぶ」形で一冊を貫く。挫折しにくさは、目次の粒の大きさで測れるよ。
巻数別:短めで完結するか、長く追いかけるか
橘ナナミ
巻数も気になります。
佐藤メバル
『極道大名(3)』は「ついに完結」とあるから三巻でまとまる。『はやぶさ新八御用帳』は(十)で堂々の完結、泉ゆたか『旅立ちの空 お江戸縁切り帖』も最終巻だ。長く続くほうなら『怒り一閃 はぐれ長屋の用心棒(24)』、『酔いどれ小籐次留書』の第十八弾、赤川次郎『怪異名所巡り』の第十三巻——気に入ったときの“在庫の長さ”で選ぶのも立派な基準だ。
主人公の職業別:同心・浪人・料理人・商人・医者
橘ナナミ
好きな主人公から選べますか?
佐藤メバル
できる。同心なら『はやぶさ新八御用帳』の北町御番所の新八郎、剣客なら鳥羽亮『剣客春秋(遠国からの友)』の千坂彦四郎、医者なら藤沢周平『新装版 風雪の檻 獄医立花登手控え(二)』——柔術仲間が消える事件に、心優しい青年医師が挑む。鍼医師の藤枝梅安、奥右筆組頭の『密封 奥右筆秘帳』、居酒屋の女将の『雪見酒 居酒屋お夏 春夏秋冬』、縁切り屋の『旅立ちの空 お江戸縁切り帖』——稼業から逆引きすると失敗が少ない。
入手手段別:紙の文庫・電子・図書館
橘ナナミ
全巻となると金額も気になります。
佐藤メバル
文庫は手に取りやすい値ごろのものが多く、単行本で出ているものは価格が上がる。電子やサブスクの対象は時期で入れ替わるから、買う前に書店サイトで確認するのが確実だ。図書館は時代小説の文庫が強い棚で、第一巻だけ借りて相性を試すのもいい。
入門度別:最初の一冊/ステップアップ
橘ナナミ
いちばん最初の一冊なら?
佐藤メバル
宮部みゆき『新装版 震える岩 霊験お初捕物控』は「霊験お初」シリーズ第一弾で、死人憑きの噂から静かに入っていける。奥山景布子『寄席品川清州亭』もシリーズのスタートで、幕末の寄席をめぐる人情と笑いが心地いい。一段深いものなら上田秀人『密封 奥右筆秘帳』——文庫書き下ろしで幕政の闇に切り込む新シリーズの開幕だ。さらに上を目指すなら『嶽神伝 鬼哭 上』の戦国の死闘かな。
時代小説シリーズもの本をひと目で比較
橘ナナミ
えっ、25冊もあるんですか!?まずどう見ればいいんですか?
佐藤メバル
焦らず焦らず(笑)。まずはこの一覧で全体像を眺めてみよう。価格・著者・対象読者をまとめて見られるから、自分に近そうなのが分かるはず
時代小説シリーズもの本のおすすめ人気ランキング
橘ナナミ
一覧だけだとピンと来ないので...1冊ずつ詳しく教えてください!
佐藤メバル
よし、それじゃあ1位から順に1冊ずつ解説していこう。各冊どんな人に向いてるかも合わせて話すから、自分に合いそうなのを見つけてほしい
新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一)
池波正太郎 著|講談社
¥792(税込)
品川台町の鍼医師・藤枝梅安。表の顔は名医、裏の顔は金次第で「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」を闇から闇へ葬る仕掛人。相棒・彦次郎との息の合った仕事ぶりを、冷酷さと人間味の同居する筆致で描く。「鬼平犯科帳」「剣客商売」と並び称されるシリーズの第一弾で、池波作品の入口として最適。殺しの場面より、仕事の前後の町の匂いや飯の描写が妙に濃いのが池波らしさ。痛快さと翳りを同時に味わえる一冊。
こんな人におすすめ
池波正太郎をまだ読んだことがない人。時代小説の“任侠もの”ではなく、職人技のような殺しの美学を読みたい人。一話ずつ区切りよく読めるので、通勤電車や寝る前の短い時間にも向く。ドラマ化作品から入った人にも。
良い点
- 冷酷さと人情の同居が魅力
- 短編形式で読みやすい
- 町と飯の描写が濃い
気になる点
- 殺しの描写は容赦ない
- 人物関係が多く混乱しがち
- 明朗な勧善懲悪ではない
出版社
講談社
発売日
2001年04月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「仕掛人」って、要するに殺し屋ですよね。それを主人公にする物語って、どんな気持ちで読むんでしょう。ちょっと身構えちゃいます。
佐藤メバル
いい質問だね。梅安は金次第で人を葬る仕事を請ける。でも池波さんは、そこに「世の中に生かしておいては、ためにならぬやつ」という理屈を置いた。
殺しそのものより、その前後の所作や飯、町の匂いを丁寧に書く。だから嫌悪よりも、職人の手順を見ているような感覚になるんだ。
鬼平や剣客商売と並ぶシリーズの一冊目だよ。
橘ナナミ
職人仕事として読む、か。じゃあ最初の一冊にしても大丈夫ですか?シリーズの途中から入るのが怖くて、つい手が出ませんでした。
佐藤メバル
これは第一弾だから、まさに入口だね。短編の連なりだから一話ずつ区切れるし、彦次郎という相棒との掛け合いもこの巻で掴める。
難点を挙げるなら、人物が多くて最初は名前を追うのに苦労する。手帳に書き出す読者もいるくらいだ。でも読み終える頃には、梅安の“人の良さ”が妙に残るはずだよ。
新装版 風雪の檻 獄医立花登手控え(二)
藤沢周平 著|講談社
¥616(税込)
小伝馬町の牢で囚人を診る獄医・立花登のシリーズ第二弾。柔術仲間の新谷弥助が姿を消し、深川の遊所でよからぬ男たちと歩く姿が目撃される。行方を追ううち、悪の背後に弥助の影が浮かぶ。熱血な青年医師が、信じたい気持ちと現実の間で揺れるのが読みどころ。藤沢周平の捕物帳は、事件の解決より「人がなぜ変わるのか」を丁寧に描く。剣客ものとは違う、市井の目線が心地いい。
こんな人におすすめ
藤沢周平の人情ものを読みたい人。医者と牢という珍しい舞台に関心がある人。シリーズ二作目だが、前巻を読んでいれば人物の関係がより沁みる。短編集なので移動中にも。派手な事件より、人の心が動く瞬間を味わいたい人に向く。
良い点
- 医師と牢という舞台が新鮮
- 友情と裏切りの描き方が巧い
- 一文が端正で読みやすい
気になる点
- 派手な立ち回りは少なめ
- 前巻の人物把握が必要
- 解決は静かめ
出版社
講談社
発売日
2002年12月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
藤沢周平さんって『蝉しぐれ』みたいなイメージなんですけど、捕物帳も書いてるんですね。牢の医者って、実際どんな仕事なんですか。
佐藤メバル
登は小伝馬町の牢で囚人を診る青年医師だ。武士でも岡っ引きでもないから、事件に関わる距離が独特なんだよ。
今回は柔術仲間の弥助が消え、深川の遊所で悪い男たちと歩いていたと聞かされる。信じたい気持ちと、見えてしまう現実のずれを、藤沢さんは静かに書いていく。
橘ナナミ
悪の背後に、友人がいるかもしれないというのは重いですね。剣で解決するタイプの話ではないんでしょうか?
佐藤メバル
立回りはあるけれど、主役はあくまで“人の心が動く瞬間”だね。弥助は何が彼を変えたのか、という問いが物語の芯にある。
藤沢作品は一文が端正だから、初めてでも引っかからずに読める。ただ、二作目なので前巻の人間関係を知っていると、登の懊悩がより深く届くよ。
竜笛嫋々新装版
佐伯泰英 著|幻冬舎
¥660(税込)
赤目小籐次が思いを寄せるおりょうに舞い込んだ縁談。違和感を抱いたおりょうは、小籐次に縁談相手・高家肝煎の畠山頼近の素性調査を依頼する。やがておりょうは謎の手紙を残して失踪し、畠山が偽者との疑いも浮上する。恋の行方と事件の謎が同じ線で動く構成が鮮やかで、シリーズ第八弾ながら筋は一冊で追える。剣戟の派手さより、人の思惑が絡む謎解きを味わいたい人向け。
こんな人におすすめ
佐伯泰英のシリーズを“人物の関係”で追いたい人。恋の行方と謎解きを同時に楽しみたい読者。時代小説の入門として少し軽めのものを探している人にも向く。第八弾だが、筋は一冊で追える。
良い点
- 恋と探索が同時進行する構成
- 謎の重なりが心地よい
- シリーズ世界が広い
気になる点
- 第八弾なので背景説明は少ない
- 武芸の見せ場は控えめ
- 人物名の把握が前提
出版社
幻冬舎
発売日
2011年02月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
佐伯泰英さんって『居眠り磐音』のイメージが強いんですが、この小籐次シリーズはどう違うんですか。同じ作家さんでも雰囲気が違いそうです。
佐藤メバル
磐音が剣と人の情けで進む物語なら、小籐次はもう少し“世話焼きの大人”の色が濃い。今回は、思いを寄せるおりょうに縁談が来て、その相手の素性を調べてくれと頼まれるところから始まる。
恋の行方と事件の謎が同じ線で動くのが巧いんだよ。
橘ナナミ
おりょうさんが、謎の手紙を残して失踪してしまうんですね。シリーズを追ってきた人ほど、ハラハラしそうな展開です。
佐藤メバル
そう、ここは連載を追ってきた読者ほど効く。ただ、第八弾だから人物の前提知識は少し要る。逆に言えば、謎が謎を呼ぶ重ね方だけを追っても十分楽しい。
剣戟より人の思惑を読む一冊だと思って手に取るといいよ。
新装版 震える岩 霊験お初捕物控
宮部みゆき 著|講談社
¥935(税込)
本所深川で「死人憑き」が起きた。甦った人物が以前より若返っていると感じた「姉妹屋」のお初は、老奉行の御前さまから紹介された与力見習・右京之介と探索を始める。そのさなか油樽から女の子の遺体が発見される。死んだ人が戻る不思議と、家族に縛られる人の情を同時に扱うのが宮部みゆきの真骨頂。怪異ものと捕物帳の交差点で、シリーズ第一弾としても入りやすい。
こんな人におすすめ
宮部みゆきの時代ものを初めて読む人。怪異と人情の両方が欲しい読者。ホラーは苦手だが不思議な話は好き、という人にも向く。一冊で完結する満足感を求める人へ。シリーズ第一弾なので、ここから追いかけ始めるのもいい。
良い点
- 怪異と人情のバランスが絶妙
- お初の語り口が親しみやすい
- シリーズ一作目で入口
気になる点
- 事件の陰惨さはそれなり
- 恋の進展はゆっくり
- 他の宮部作品より静か
出版社
講談社
発売日
2014年03月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
宮部みゆきさんが時代小説も書いてるって知らなかったです。これ、ホラーなんですか?捕物帳なんですか?どっちの気持ちで開けばいいんでしょう。
佐藤メバル
どちらも入っている、が正解かな。「死人憑き」という、死んだはずの人が戻ってくる怪異が起きて、姉妹屋のお初が探索に関わる。
甦った人が以前より若返っているという違和感が、事件の入口になるんだ。同時に油樽から女の子の遺体が見つかる。怪異と、人の業の話が重なっていく。
橘ナナミ
「人は過去にも家族にも縛られる」という言葉が気になります。単なる怪談ではなく、人の心の話なんだなと思いました。
佐藤メバル
そこが宮部さんの上手さだね。人は狡くて汚い、だけど優しくて美しい、と紹介文にもある通り、誰かを思う執着が事件の形を決めていく。
第一弾だから、お初と右京之介の出会いから追えるのも大きい。怪異が苦手でも、人情の側から読める一冊だよ。
密封 奥右筆秘帳
上田秀人 著|講談社
¥924(税込)
江戸城の書類決裁に関わる奥右筆組頭・立花併右衛門は、田沼意次の孫・意明の死亡届を見て十二年前の田沼意知刃傷事件に疑念を抱く。帰路に襲撃され、隣家の次男・柊衛悟を護衛につけるが、二人はすでに幕政の闇の渦中にいた。刀ではなく書類が武器になる異色の政治サスペンス。権力の描き方が精密で、同じ上田秀人の藩政ものとはまた違う切れ味が味わえる。
こんな人におすすめ
政治の駆け引きを読みたい時代小説ファン。武闘より知略が好みの人。上田秀人の別シリーズを読んで作家買いしたい人。書類と人事のリアルを味わいたい人へ。シリーズ一作目なので、ここから入るのが素直だ。
良い点
- 書類が武器という発想が新鮮
- 幕政の闇の描き方が精密
- シリーズ一作目で入りやすい
気になる点
- 政治用語が多く前提知識が要る
- 立ち回りは少なめ
- 人物名が覚えにくい
出版社
講談社
発売日
2007年09月14日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「奥右筆」って何ですか?聞いたことがなくて。字面からだと、筆で何か書く人?調べてみても、いまいちピンときませんでした。
佐藤メバル
江戸城で書類の決裁に関わる、要するに幕府の事務の中枢だね。立花併右衛門はその組頭で、田沼意次の孫の死亡届を見たことから、十二年前の刃傷事件に引っかかりを覚える。
刀ではなく書類と人事が武器になるのがこのシリーズの面白さだよ。
橘ナナミ
書類で闘う時代小説って、ちょっと珍しいですね。でも、幕政の話ってやっぱり難しくて、途中で挫けたりしませんか?
佐藤メバル
そこは覚悟がいる。ただ、襲撃されて護衛をつける、というところから一気に物語が動くから、用語を追いながらでも引っ張られる。
上田秀人は藩の内幕ものを得意とする作家で、権力の仕組みを描く精度が持ち味だ。第一章「過去の亡霊」から、過去が現在を刺しに来る構成も効いているよ。
酔いどれ小籐次留書 政宗遺訓
佐伯泰英 著|幻冬舎
¥660(税込)
秋雨が十日以上降り続き、食べ物に事欠く者が続出。新兵衛長屋では住人総出の炊き出しが計画される。その会場の空き家から、勝五郎が金無垢の根付を見つける。先の住人は夜鷹と思しき女で、部屋には家探しの跡があった。長屋の暮らしの細部から事件が立ち上がるのがこのシリーズの持ち味で、第十八弾でも一冊で完結して読める。市井の目線と謎が噛み合う。
こんな人におすすめ
長屋ものの日常と事件を両方楽しみたい人。シリーズ途中でも単体で読みたい読者。佐伯泰英の“生活感のある時代小説”が好みの人。食べ物の描写が好きな人にも。第十八弾だが一冊で完結して読める。
良い点
- 長屋の日常描写が細かい
- 単体でも筋が追える
- 根付という小道具が効く
気になる点
- 大きな事件ではない
- 既刊の人間関係は説明少なめ
- 派手な剣戟は控えめ
出版社
幻冬舎
発売日
2012年08月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
炊き出しの話から事件が始まるんですね。いきなり殺し、ではないところが逆に気になります。長屋の日常がどこまで続くのかも楽しみです。
佐藤メバル
そう、そこが小籐次というシリーズの性格だね。秋雨で食べ物に困った長屋の住人たちが総出で炊き出しを計画する。
その会場の空き家で、勝五郎が金無垢の根付を見つけてしまう。見つけた物の値打ちと、部屋に残った家探しの跡が、只ならぬ事態を察させるんだ。
橘ナナミ
前の住人が夜鷹かもしれない、というのも気になります。第十八弾でも、途中からでも読めますか?
佐藤メバル
筋は追えるよ。ただ、長屋の面々の距離感を知っていると、何気ない会話の重みが変わる。このシリーズは暮らしの細部から謎が立ち上がるところが持ち味で、派手さはない。
その代わり、読み終えたあとに町の匂いが残る。そこが好きな読者にはたまらない一冊だね。
楊令伝 1 玄旗の章
北方謙三 著|集英社
¥858(税込)
『水滸伝』の続編にあたる大河作品の第一巻。梁山泊陥落から三年、宋との戦に敗れた同志たちは各地に散り、結集の秋を待って潜伏していた。青蓮寺による残党狩りが苛烈を極めるなか、青面獣・楊令の帰還が待ち望まれる。敗れた者たちがもう一度立ち上がる物語で、漢たちの志の熱量がそのまま文体になっている。解説は宮部みゆき。
こんな人におすすめ
『水滸伝』を読了した人。大きな物語に浸りたい読者。群像劇と戦の緊張感を求める人。時間をかけて長編を追いたい人へ。第一巻なのでここから大河に乗ることもできるが、前作の知識があると人物が立ち上がる。
良い点
- 志の熱量がすごい
- 続編としての広がりが大きい
- 宮部みゆきの解説が嬉しい
気になる点
- 前作未読だと人物が分かりにくい
- 巻数が多く長い道のり
- 戦の描写は容赦ない
出版社
集英社
発売日
2011年06月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これ、『水滸伝』の続きなんですよね。前作を読んでいないと、やっぱり厳しいんでしょうか?登場人物も多そうですし。
佐藤メバル
正直、前作を読んでからの方が断然いい。梁山泊が陥落して三年、散った同志たちが再び結集の時を待っている、というのが出発点だから、誰が誰だか分からないと熱量が受け取れない。
敗れた者たちがもう一度立ち上がるという筋そのものが主題なんだ。
橘ナナミ
青面獣・楊令って、名前だけ聞くと強そうですね。同志たちは、彼が帰ってくるのを待っている構成なんですか。
佐藤メバル
そう。青蓮寺の残党狩りが苛烈になるなか、楊令の帰還が待ち望まれる。北方謙三の文体は、漢たちの志をそのまま太い線で書く。
だから派手な技の応酬より、生き方のぶつかり合いを読みたい人に向く。解説を宮部みゆきさんが書いているのも、この大河の幅を物語っているよ。
春雷道中新装版
佐伯泰英 著|幻冬舎
¥660(税込)
久慈行灯の製作指南と、久慈屋の跡取り娘と手代の結婚報告のため水戸へ出立した小籐次一行。だが主人の座を狙う番頭・泉蔵が率いる一味に襲撃され、さらに道中で新たな騒動が勃発。図らずも二組の敵を迎え撃つことになる。旅の道中と内部の陰謀が同時に進む構成で、シリーズ第九弾。人の好さと凄みを併せ持つ小籐次の人物像が際立つ。
こんな人におすすめ
道中ものを読みたい人。旅と戦いを同時に味わいたい読者。小籐次シリーズを追っている人。一冊で区切りよく読みたい人にも。酒と人情の場面が挟まれるので、重すぎない時代小説を探している人にも向く。
良い点
- 道中と陰謀の二重構造
- 小籐次の人物像が際立つ
- テンポよく読める
気になる点
- 第九弾で前提知識が要る
- 敵味方の整理が必要
- 大きな事件ではない
出版社
幻冬舎
発売日
2011年02月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
水戸に行くだけの道中なのに、二組の敵と戦うことになるんですか。何が起きるんですか?旅の話と戦いの話、どちらの比重が大きいんでしょう。
佐藤メバル
出立の目的は久慈行灯の製作指南と、久慈屋の跡取り娘と手代の結婚報告だ。ところが主人の座を狙っていた番頭の泉蔵が一味を率いて襲ってくる。
さらに道中で別の騒動が起きて、二組の敵を同時に相手にすることになるんだ。
橘ナナミ
内輪もめと道中のトラブルが同時に重なるんですね。小籐次さんって、そういうときはどんな人なんですか。
佐藤メバル
酒を愛する気のいい人物だが、いざとなると凄みが出る。この巻は、その両面がよく見える。第九弾だから人間関係の前提は多少要るけれど、旅の場面の開放感と、襲撃の緊張感の切り替えが気持ちいい。道中ものを一冊読みたいときに向くね。
新参 百万石の留守居役(三)
上田秀人 著|講談社
¥770(税込)
五万石の姫・琴と婚約し、異例の若さで加賀藩江戸留守居役に抜擢された数馬。先任の小沢は藩の秘事を土産に、幕閣筆頭を狙う老中堀田家へ抱えられていた。留守居役にとって遊興も宴席も戦場であり、なれぬ吉原で言葉の刃に弱みを突かれる。交渉と宴席が勝負の場になる異色の藩政もの。江戸編の本格スタートとして読める第三弾。
こんな人におすすめ
藩の外交・交渉ものを読みたい人。言葉の駆け引きが好きな読者。上田秀人の江戸留守居役シリーズを追う人。武闘よりも知略を味わいたい人へ。江戸編の入口になるので、ここから入るのも手だ。
良い点
- 宴席が戦場という設定が面白い
- 数馬の若さと成長が軸
- 江戸編の入口になる
気になる点
- 三作目で前提知識が必要
- 刀の見せ場は少ない
- 政治用語が多い
出版社
講談社
発売日
2014年06月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
留守居役って、藩の窓口みたいな役職ですか?吉原で戦うってどういうことでしょう。刀を抜くわけじゃないんですよね?
佐藤メバル
江戸留守居役は、藩と幕府や他家をつなぐ外交の要だね。だから宴席も遊興も、れっきとした交渉の場になる。
数馬は五万石の姫・琴と婚約し、異例の若さで抜擢された。周囲の風当たりは強く、先任の小沢は藩の秘事を土産に堀田家へ移っている。
酒の席で言葉の刃を突きつけられるのが今回の見どころだよ。
橘ナナミ
刀ではなく、言葉で斬り合う戦いなんですね。数馬さんは押し切られてしまいそうですか、それとも反撃するんでしょうか?
佐藤メバル
そこが読みどころでね。なれぬ吉原で、弱みを突いてくる相手にどう反撃するか。若さゆえのまっすぐさが武器になる場面もある。
第三章「遊興の裏」あたりの畳みかけは、政治と人情が同時に動く。三作目なので前二巻の関係は押さえておきたいが、江戸編の入口としても読めるよ。
怒り一閃 はぐれ長屋の用心棒(24)
鳥羽亮 著|双葉社
¥639(税込)
島田藤四郎の推挙で陸奥松浦藩の剣術指南となった華町源九郎と菅井紋太夫。まもなく藩の門弟二人が斬殺され、二人も同じ下手人と思われる牢人たちに襲われる。さらに菅井を師と仰ぐ若い藩士が殺害され、菅井は怒りに燃えて源九郎とともに下手人殱滅に立ち上がる。師弟の情が剣の理由になるシリーズ第二十四弾。
こんな人におすすめ
剣戟の爽快感を求める人。師弟ものの情に惹かれる読者。長く続くシリーズを一冊から味わいたい人。短時間で読み切りたい人へ。江戸ではなく陸奥の藩が舞台なので、地方の剣術指南という珍しい立場も味わえる。
良い点
- 師弟の情が物語の芯
- 剣戟の描写が気持ちいい
- 一冊で筋が追える
気になる点
- 二十四弾で人物の積み重ねは省略
- 展開は王道
- 謎解き要素は薄め
出版社
双葉社
発売日
2012年04月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
二十四弾って、さすがに長いシリーズですよね。途中から読んでも大丈夫なんでしょうか。一冊だけ読んでみる、という手はありですか?
佐藤メバル
筋は追えるよ。ただ、この巻の怒りは、これまでの付き合いがあってこそ深い。剣術指南になった源九郎と菅井のもとに、藩の門弟が斬られ、菅井を師と仰ぐ若い藩士まで殺される。
師を慕う弟子が殺されたときに、剣が何のためにあるかが問われるんだ。
橘ナナミ
菅井さんが怒りに燃える、というのがタイトルの「怒り一閃」なんですね。読後感は爽快な方ですか、それとも重いですか?
佐藤メバル
爽快さもあるけれど、怒りが先に立つ。そこがこのシリーズの持ち味で、正しさより情が動く。牢人たちを相手に源九郎と菅井がどう動くか、という見せ場が続く。
長いシリーズの一冊としても、剣戟ものを一本読みたいときにも向くよ。
大名やくざ(4)
風野真知雄 著|幻冬舎
¥594(税込)
赤穂浪士の生き残り・寺坂吉右衛門が、吉良の血筋・上杉家から命を狙われているという。虎之助は祖父と親しかった寺坂を守ろうと動くうち、やくざも驚く上杉家の狡猾な策に辿りつく。一方で家中の敵対派からは藩主として命を狙われ、縄張り抗争も激化する。殿様とやくざの二重生活という振り切った設定が痛快な第四弾。
こんな人におすすめ
設定の振り切れた娯楽時代小説が好きな人。忠臣蔵の裏側に興味がある読者。テンポよく笑いながら読みたい人。シリーズを追っている人へ。四作目だが、勢いで読ませるタイプなので途中からでも入りやすい。
良い点
- 殿様とやくざの二重設定が痛快
- 忠臣蔵の裏側が絡む
- テンポが速い
気になる点
- 四作目で人物関係は前提
- 史実との違いは気にしない方向け
- 荒唐無稽さは否めない
出版社
幻冬舎
発売日
2015年01月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
大名でありながら、やくざでもあるんですか?その設定だけでちょっと笑ってしまいました。久留米藩の殿様が、そのまま極道を名乗っているということですよね。
佐藤メバル
そこがこのシリーズの売りだね。久留米藩主の有馬虎之助が、同時に極道としても名を馳せている。今回は赤穂浪士の生き残り、寺坂吉右衛門が上杉家から狙われているという話が絡む。
祖父と親しかった人物を守ろうとするうち、上杉家の狡猾な策に行き当たるんだ。
橘ナナミ
忠臣蔵の生き残りが出てくるんですね。しかも藩主としても命を狙われて、とにかく忙しい人だなあと思いました。
佐藤メバル
そう、家中の敵対派からも狙われ、縄張り抗争も激しくなる。二つの立場が同時に危うくなるから、暴れっぷりに磨きがかかる。
四作目だから人間関係は前提になるけれど、設定の勢いで読ませるタイプだ。史実の枠を気にせず楽しむのが正解だよ。
新装版 はやぶさ新八御用帳(十) 幽霊屋敷の女
平岩弓枝 著|講談社
¥726(税込)
大雪に慌てる江戸。雪で帰路を失った北町御番所の同心たちに振る舞われた酒に毒が盛られ、さらに御番所の前に置かれた雪だるまの中から遺体が発見される。探索に出た新八郎の前には、賄賂の横行や大奥を足がかりにした私利私欲の政治があった。雪という情景が事件の冷たさを際立たせる。表題作ほか五編を収めたシリーズ完結巻。
こんな人におすすめ
平岩弓枝の御用帳ものを愛読してきた人。完結巻として締めくくりたい読者。連作短編で江戸の情景を味わいたい人。大奥が絡む事件が好きな人にも。雪の情景が印象的なので、冬に読むのも一興だ。
良い点
- 雪の情景が印象的
- 連作短編で読みやすい
- 完結巻としての満足感
気になる点
- 十作目で前提知識が必要
- 陰惨な事件を含む
- 派手な剣戟はない
出版社
講談社
発売日
2019年01月16日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
シリーズの完結巻なんですね。いきなり最後から読むのは、やっぱりよくないですか?十作目まで来ると、人物もかなり増えていそうです。
佐藤メバル
できれば最初から追ってほしいけれど、この巻は短編が六つ並んでいるから、一篇ずつは楽しめる。ただ、登場人物の積み重ねが効く最終巻なので、愛読者ほど締めくくりとして沁みる。
雪だるまの中から遺体が見つかるという出だしの冷たさが、全編を貫くんだ。
橘ナナミ
冒頭で毒入りの酒が出てくるのも不穏ですね。大奥が絡むとなると、政治の話にもなりそうで、少し身構えます。
佐藤メバル
そう、賄賂が横行し、大奥を足がかりにした私利私欲の政治に旗本たちが翻弄される。派手な立ち回りではなく、人の欲が静かに積み上がるのが平岩弓枝の御用帳だね。
収録作の並びもよくできていて、最後にきちんと着地する。連作短編で江戸を味わいたい人に向くよ。
隠密 味見方同心(五) フグの毒鍋
風野真知雄 著|講談社
¥671(税込)
目の見えない板前が作り、やくざが食べる危険なフグ鍋の噂。度胸試しで無事に食えたら親分として認められるという。食い物関係は味見方の範疇とされ、人一倍気弱な魚之進が意地悪な先輩同心に捜査を押しつけられてしまう。食の専門役という珍しい設定と、江戸の料理の描写が魅力。収録は「馬鹿弁当」「フグの毒鍋」「イカタコ煮」「なみだ酒」の四話。
こんな人におすすめ
食と事件を一緒に楽しみたい人。気弱な主人公の奮闘を応援したい読者。短編を少しずつ読みたい人。料理の描写が好きな人へ。先輩同心に押しつけられても逃げない魚之進の姿に、少し元気をもらえる。
良い点
- 味見方という設定が珍しい
- 料理の描写が楽しい
- 気弱な主人公が愛おしい
気になる点
- 五作目で人物の前提はある
- 大事件ではない
- ミステリの重さは控えめ
出版社
講談社
発売日
2016年01月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「味見方同心」って、同心が食べ物の味を見るんですか?そんな役目があるんですね。毒見に近いものなのか、それとも別の役割なのか気になります。
佐藤メバル
そこがこのシリーズの面白さだね。食い物に関わる事件は味見方の範疇、という理屈で、魚之進が捜査に入っていく。
今回は目の見えない板前が作り、やくざが食べる危険なフグ鍋の噂が発端だ。度胸試しで食えたら親分として認めるという話になっていて、気弱な魚之進が先輩に押しつけられてしまう。
橘ナナミ
気弱なのに、やくざの捜査を任されてしまうんですね。しかも料理の話も出てくるなんて、なんだか楽しそう。
佐藤メバル
収録作が「馬鹿弁当」「フグの毒鍋」「イカタコ煮」「なみだ酒」と、もう献立のようだ。江戸の食の描写と、人一倍気弱な男の意地が同時に味わえる。
五作目だから人物の前提は多少あるけれど、一話ずつ独立しているので読みやすい。食いしん坊の読者にも勧めたいね。
極道大名(3)
風野真知雄 著|幻冬舎
¥594(税込)
久留米藩主でありながら極道“水天宮の虎”でもある有馬虎之助。敵対する将軍吉宗が差し向けた熊野忍軍の頭領を捕らえ、この駒をどう使おうかと悪だくみに余念がない。一方の吉宗も忍びの精鋭を放ち、胸の内では久留米藩を潰すしかないと決めていく。二人の騙し合いが同時に描かれる完結巻。書き下ろし。
こんな人におすすめ
権力者同士の駆け引きを読みたい人。シリーズを最後まで追いたい読者。将軍吉宗が登場する娯楽作を好む人。テンポのいい会話劇が好きな人へ。完結巻なので、ここまでの積み重ねがある人ほど締めが効く。
良い点
- 虎之助と吉宗の対決が軸
- 騙し合いの構成が見事
- 完結巻としての区切り
気になる点
- 三作目で前提知識が必要
- 史実からは大きく離れる
- 荒唐無稽さは承知の上で
出版社
幻冬舎
発売日
2019年08月06日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
このシリーズ、将軍吉宗まで出てくるんですね。それで今回は完結巻なんですか?虎之助さんと吉宗が直接やり合うんでしょうか。
佐藤メバル
そう。久留米藩主でありながら極道でもある有馬虎之助が、吉宗と向き合う。吉宗が差し向けた熊野忍軍の頭領を捕らえて、虎之助はこの駒をどう使うかと悪だくみを始める。
片や吉宗も、もう久留米藩を潰すしかないと心を決めている。二人の腹の内が並行して描かれるんだ。
橘ナナミ
お互いにもう、戦うつもりでいるわけですね。最後の騙し合いという言葉が、そのまま二人の関係を表している気がします。
佐藤メバル
そういうこと。捕らえた駒が交渉の材料になるのか、罠になるのか、読みながらずっと考えさせられる。
三作目だから藩内の人間関係は前提になるけれど、対決の構造そのものが面白いので、シリーズを追ってきた人には堪らない締め方だよ。書き下ろしなのも嬉しいところだね。
渡世人 大江戸閻魔帳(三)
藤井邦夫 著|講談社
¥770(税込)
汐見橋袂に佇む旅姿の渡世人を不審に思った戯作者・青山麟太郎。男は沼津藩の家臣を殺して手配中の凶状持、平蜘蛛の平七だった。茶道具屋の番頭に聞き込みをした麟太郎は、その態度に違和感を覚える。幼馴染を想う執念が絡み、六年前の殺しの真相が問い直される。戯作者の好奇心が事件をほどくシリーズ第三弾。日本歴史時代作家協会賞に触れる紹介文も添えられ、円熟の筆が頼もしい。
こんな人におすすめ
江戸の町を歩く探索ものを読みたい人。事件の裏にある執念を味わいたい読者。短く読める時代小説を探している人。シリーズを追っている人へ。作家の円熟を確かめたい人にも向く。
良い点
- 戯作者が探る設定が新鮮
- 六年前の真相を掘る構成
- 一冊で区切りよく読める
気になる点
- 三作目で人物の前提あり
- 大きな見せ場は控えめ
- 陰惨な事件を含む
出版社
講談社
発売日
2019年10月16日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
主人公が戯作者って、珍しいですね。物書きが自分で事件を追ってしまうんですか?しかも「閻魔堂赤鬼」と呼ばれているんですよね。
佐藤メバル
青山麟太郎は閻魔堂赤鬼と呼ばれる戯作者で、人を見る目と好奇心で事件に首を突っ込む。今回は汐見橋の袂にいた渡世人に不審を抱いたところから始まる。
男は沼津藩の家臣を殺した手配中の凶状持、平蜘蛛の平七だ。聞き込みの違和感が、六年前の殺しに繋がっていく。
橘ナナミ
茶道具屋の番頭さんの態度が怪しいんですか?「幼馴染を想う執念」という言葉が、妙に引っかかってしまいます。
佐藤メバル
そこが芯だね。事件そのものより、その人が何を守りたかったのかが問われる。三作目だから人間関係の前提はあるけれど、一本の事件として筋は追える。
日本歴史時代作家協会賞に触れる紹介文が添えられているのも、この作家の円熟を裏づけているよ。江戸の町の匂いとともに読める一冊だ。
旅立ちの空 お江戸縁切り帖
泉ゆたか 著|集英社
¥616(税込)
江戸の長屋で“縁切り屋”を営むお糸は、客の相談に乗り、相応しい縁切り状を認める。商売をするうち、縁切り状を受け取った者に関わる生霊が視えることに気づく。男女や親子、商売の悩みなど、切る側と切られる側の複雑な心情に生霊の力で寄り添っていく。縁を切るという行為の痛みを正面から描くシリーズ最終巻。
こんな人におすすめ
青春時代小説を読みたい人。家族や人間関係の機微に惹かれる読者。シリーズを締めくくりたい人。長屋の群像が好きな人へ。最終巻なので、ここまでの付き合いがある人ほど沁みる。怪異が苦手でも、人情の側から読める。
良い点
- 縁切りという題材が新鮮
- 生霊という仕掛けが効く
- 最終巻の締め方が丁寧
気になる点
- シリーズを追ってきた人向け
- 地味な事件が多い
- 派手な展開はない
出版社
集英社
発売日
2024年05月21日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「縁切り屋」って、離縁の手伝いみたいなものでしょうか。切る側と切られる側、どっちも辛そうですよね。
佐藤メバル
そう、そこを丁寧に書くのがこのシリーズだね。お糸は相談に乗って縁切り状を認める。そのうち、縁切り状を受け取った人に関わる生霊が視えるようになる。
切る側にも切られる側にも事情があるという前提を、生霊の力で照らしていくんだ。
橘ナナミ
生霊が出てくるのは意外でした。ファンタジー寄りのお話なんでしょうか?それとも人情の方が主役ですか?
佐藤メバル
怪異は添え物で、主役は人の心の機微だよ。長屋の面々との別れの時でもある最終巻で、お糸は自分を捨てた母の秘密を知り、新しい道を選ぶ。
自分の過去と向き合う話に着地するのが見事だね。シリーズを追ってきた人には沁みる締め方だよ。
寄席品川清州亭
奥山景布子 著|集英社
¥726(税込)
幕末の品川宿。大工の棟梁・秀八が開く寄席「清州亭」をめぐる、人情たっぷりで笑いのある物語。果たして無事に杮落しができるのか、という顛末を軸に、寄席を囲む人々の姿が描かれる。落語の噺を聞くように読めるのが気持ちよく、時代小説でありながら笑いの比重が大きい。解説は末國善己。落語好きにはたまらないシリーズの一冊目。
こんな人におすすめ
落語や寄席の空気が好きな人。笑いのある時代小説を探している読者。幕末の宿場町に関心がある人。シリーズ一作目から入りたい人へ。人情噺の調子が好きな人なら、一冊を一晩で読んでしまうかもしれない。
良い点
- 久しぶりに笑える時代小説
- 寄席という舞台設定が魅力
- シリーズ一作目で入りやすい
気になる点
- 大きな事件は起きない
- 落語の前提知識があるとより楽しい
- 人情噺の比重が高い
出版社
集英社
発売日
2017年12月14日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
寄席が舞台の時代小説って珍しいですね。落語の知識がないと楽しめないですか?噺の内容が分からないと置いていかれそうで、少し不安です。
佐藤メバル
なくても大丈夫。ただ、知っていると笑いの角度が増える。幕末の品川宿で、大工の棟梁・秀八が寄席「清州亭」を開こうとしていて、その杮落しがうまくいくのか、というのが軸になる。
噺を聞いているような軽やかな筆で、人情と笑いが交互に来るんだ。
橘ナナミ
良い噺家、良い寄席って、町の人にとって特別な場所ですよね。もし杮落しに失敗したら、どうするんでしょう。
佐藤メバル
そこが読みどころ。秀八の周りには職人や常連が集まって、それぞれ思惑もある。笑いを取りにいく場面と、しんみりする場面の切り替えがうまい。
解説を末國善己さんが書いているのも、この作品の位置づけを物語っているよ。落語好きにも、そうでない人にも薦められる一冊だ。
公家武者 信平 消えた狐丸
佐々木裕一 著|講談社
¥682(税込)
公家大名として知られる実在の人物・松平信平の物語。公家から武家となり、幕府転覆を目論む強敵を秘剣・狐丸で倒してから三年、信平は愛妻・松姫、愛息・福千代と平穏に暮らしていた。だが命を狙われた松姫の心の傷は癒えず、剣客を狙う辻斬りの噂に正義感が蘇る。平穏と剣の呼び声の葛藤が軸。実在の人物を主人公にした新シリーズ。
こんな人におすすめ
実在の人物を描いた時代小説が好きな人。家族を守る物語を読みたい読者。剣戟と人情の両方を求める人。第一話から入れる新シリーズを探している人へ。短編連作なので、一話ずつ区切って読めるのも助かる。
良い点
- 実在人物を主人公にした設定
- 家族と剣の葛藤が軸
- 各話が読み切りで入りやすい
気になる点
- 第一話から読むのが前提
- 展開はやや王道
- 幕政の話は深掘り少なめ
出版社
講談社
発売日
2017年10月13日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
松平信平って実在の人物なんですか?公家から武家になった、というのも珍しいですね。秘剣・狐丸という名前も気になります。
佐藤メバル
そこがこの作品の面白さでね。公家大名として知られた実在の人物を主人公に据えている。物語は、幕府転覆を目論む強敵を秘剣・狐丸で倒してから三年後から始まる。
信平は愛妻の松姫、愛息の福千代と穏やかに暮らしているが、松姫の心の傷は癒えていない。
橘ナナミ
剣を封印したまま、家族を守ろうとしているんですね。剣客を狙う辻斬りが出ているという噂が、気になって仕方ありません。
佐藤メバル
そこが転機になる。剣客を狙う辻斬りが出没していると聞いて、信平の中の正義感が動き出す。封印した愛刀が抜かれるのかどうか、というのが読者にとっての見どころだね。
第一話「消えた狐丸」をはじめ各話が読み切りになっているから、新シリーズの入口としても入りやすいよ。
剣客春秋(遠国からの友)
鳥羽亮 著|幻冬舎
¥628(税込)
柳原通りで武士同士の斬り合いに遭遇した千坂彦四郎は、窮地の永倉平八郎を助ける。後日、弟を伴い道場を訪れた平八郎は、お礼もそこそこに馴れ馴れしく振る舞い、ついには離れに住まわせてほしいと言い出す。道場主の藤兵衛は申し出を快諾するが、その判断が千坂家に思わぬ禍をもたらす。善意が裏目に出る過程を丁寧に描く剣客もの。
こんな人におすすめ
剣客ものを落ち着いて読みたい人。善意と警戒のあわいを味わいたい読者。鳥羽亮の道場ものを追う人。短時間で読み切りたい人へ。一冊で筋が通っているので、初めてでも入りやすい。
良い点
- 恩を仇で返す過程が巧い
- 道場の人間関係が丁寧
- 題材が身近で入りやすい
気になる点
- 派手さは少ない
- シリーズの前提が多少ある
- 展開は静か
出版社
幻冬舎
発売日
2012年06月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
助けた相手に住み着かれちゃう、って、なんだか妙に現実的で嫌な予感がします。恩を仇で返されるんですか?
佐藤メバル
まさにそこが物語の芯だね。斬り合いから助け出した永倉平八郎が、後日、弟を連れて道場に来て、離れに住まわせてほしいと言い出す。
道場主の藤兵衛が快諾してしまう。善意が家に禍を持ち込む過程を、鳥羽亮は急がずに描くんだ。
橘ナナミ
誰も悪意があるようには見えないのが、逆に怖いかもしれないですね。彦四郎さんは止められなかったんでしょうか?
佐藤メバル
懸念はしていたんだよ。それでも決めたのは道場主だから、彦四郎は立場上、押し切られる。親切と警戒のあわいが丁寧に書かれていて、剣戟より人の判断の怖さが主役になっている。静かな話が好きな人に向くね。
逃がし屋小鈴
風野真知雄 著|幻冬舎
¥586(税込)
居酒屋“小鈴”に飛び込んできた生真面目な侍。「助けてもらえぬか?」と頼む蘭学者は、開明的な動きが幕府にばれて追われていた。小鈴は亡き母の志を継いで助けると決めるが、幕府に睨まれた男をどう逃がすか。受け入れる側の覚悟を描くお侠な新米女将の物語。シリーズ第六弾で、初仕事の顛末が軸になる。店に集まる常連たちの掛け合いも楽しく、江戸の居酒屋の空気ごと味わえる。
こんな人におすすめ
女将が主人公の時代小説を探している人。追われる人を助ける物語を読みたい読者。一話で区切って読みたい人。居酒屋と江戸の空気が好きな人へ。新米の女将が覚悟を決めるまでを、温かく見守れる一冊だ。
良い点
- 新米女将の覚悟が軸
- 常連客の掛け合いが楽しい
- 一冊で読み切りやすい
気になる点
- 六作目で前提は多少ある
- 大掛かりな展開ではない
- 藩政の背景は薄め
出版社
幻冬舎
発売日
2012年06月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
居酒屋の女将さんが、追われている人を逃がすんですか。亡き母の志って、そういうことだったんですね。なんだか覚悟が要りそうです。
佐藤メバル
そう。小鈴の店に飛び込んできた蘭学者が「助けてもらえぬか」と頼む。開明的な動きが幕府にばれて追われている男だ。
母がやってきたことを継ぐ初仕事として、彼女は助けると決める。でも、幕府に睨まれた男をどう逃がすか、手順は簡単じゃない。
橘ナナミ
居酒屋だから、店に来る常連客の目もあるでしょうし、隠すにしても逃がすにしても難しそうですね。
佐藤メバル
そう、人の出入りの多い店だからこそ、隠すにも逃すにも知恵が要る。常連たちの掛け合いが楽しくて、そこがこのシリーズの持ち味だ。
第六弾だから人物の前提は少しあるけれど、小鈴の初仕事の顛末として一本で読める。新米女将を応援したくなる一冊だよ。
明日の幽霊は踊らない 怪異名所巡り 13
赤川次郎 著|集英社
¥1,650(税込)
霊感バスガイド・町田藍が、怪奇現象の裏に隠された真実を明らかにする〈すずめバス〉シリーズ第十三巻。バブル時代に流行したディスコが再び人気らしく、ツアー計画の下見に訪れた藍は、昔の大事故に関わる幽霊が出るという噂を聞く。幽霊にも深い事情があるという視点が貫かれ、表題作ほか全六話を収録。一篇ずつ気軽に読める。
こんな人におすすめ
怪異と人情の短編を読みたい人。バブル期のディスコという舞台に関心がある人。赤川次郎の軽妙な語り口が好きな読者。一話ずつ読める本を探している人へ。ホラーが苦手でも、幽霊側の事情を想像する話として楽しめる。
良い点
- 幽霊側の事情を描く視点が新鮮
- 全六話で読みやすい
- バブルのディスコが題材
気になる点
- 十三巻で人物の積み重ねあり
- ホラーではなく人情寄り
- 大きな事件ではない
出版社
集英社
発売日
2025年08月05日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「幽霊にだって深い事情がある」って、いい言葉ですね。これ、ホラーとして怖がるお話ではないんですか?〈すずめバス〉という名前も気になります。
佐藤メバル
ホラーとして怖がらせるより、幽霊側の事情を想像する話なんだ。主人公は霊感バスガイドの町田藍。
今回はバブル時代に大流行したディスコが再び人気らしく、ツアーの下見で訪れた先で、昔の大事故に関わる幽霊が出るという噂を聞く。
橘ナナミ
バブル期のディスコって、今の読者には逆に新鮮かもしれませんね。表題作ほか全六話ということは、一篇ずつ読めるんですか?
佐藤メバル
そう、一篇ずつ楽しめる。十三巻だから人物の積み重ねはあるけれど、怪異を怖がらせるためではなく、人の未練をほどくために使うのがこのシリーズの流儀だ。
赤川次郎の軽妙な語り口で、すいすい読めるよ。
平安あや解き草紙 〜その女人達、故あり〜
小田菜摘 著|集英社
¥627(税込)
平安後宮を舞台にしたお仕事ミステリー。「長きに渡って主上にお仕えしたい」と答えを出した伊子は、嵩那への恋心と帝への忠誠の間で揺れる。思いとは腹に宮廷での存在感は増し、新大納言の大姫が入内。同じ頃、若き女御の殿舎が荒らされ、藤壺女御・桐子の下には亡き先々帝と思しき人影が夜な夜な訪れる。恋と仕事のはざまで選ぶ女を描く。
こんな人におすすめ
平安後宮ものを読みたい人。キャリアと恋の揺れに共感したい読者。短編形式のミステリを楽しみたい人。女性同士の関係を描いた話が好きな人へ。後宮の仕事の細かさに関心がある人なら、用語を覚える楽しみもある。
良い点
- 後宮の仕事描写が細かい
- 恋と忠誠の揺れが軸
- 三話構成で読みやすい
気になる点
- シリーズ途中のため前提あり
- 事件は控えめ
- 平安の用語に慣れが要る
出版社
集英社
発売日
2021年04月20日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
平安時代の後宮で働くお話なんですね。それでいてミステリでもある、というのがよく分からなくて。お仕事ものとして読めるんですか?
佐藤メバル
そう、後宮が舞台の“お仕事ミステリー”だね。主人公の伊子は「長きに渡って主上にお仕えしたい」と答えを出すけれど、嵩那への恋心と帝への忠誠の間で揺れている。
決めたはずの道が、思いとは裏腹に揺れるのが読みどころだよ。
橘ナナミ
女御の殿舎が荒らされたり、亡き先々帝と思しき人影が出たり。皇統をめぐる思惑が絡んでいそうで、気になります。
佐藤メバル
そこが宮廷ものの醍醐味だ。新しく入内した大姫、出産を控えた藤壺女御の桐子、そして皇統の奪回を目論む入道の女宮の影。
政と女たちの事情が同時に動く三話構成で、伊子の差配が光る。平安の用語に少し慣れが要るけれど、いつの時代も些細なことが女を悩ませる、という視点が心地いいよ。
雪見酒 居酒屋お夏 春夏秋冬
岡本さとる 著|幻冬舎
¥715(税込)
お夏の居酒屋には、人情、毒舌、旨い飯が行き交う。絶妙な居心地の良さの虜になった男女が集い、悲喜こもごもの事件が起きる。ある日お夏は、目黒の豪傑として知られる初老の剣客の言動に胸騒ぎを覚える。弟子の活躍もあって声望を高めていた男に一体何があったのか。剣客の翳りと店の賑わいの対比が巧いシリーズ新章第二弾。
こんな人におすすめ
居酒屋ものの人情と料理を楽しみたい人。剣客の翳りを描いた話が好きな読者。短編を少しずつ読みたい人。シリーズを追っている人へ。新章第二弾なので、前巻から読むとより楽しい。
良い点
- 人情と毒舌の掛け合いが楽しい
- 料理の描写が魅力的
- 剣客の翳りが効く
気になる点
- 新章のため前巻把握が望ましい
- 大きな事件はない
- 派手な立ち回りは少なめ
出版社
幻冬舎
発売日
2021年04月08日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「人情、毒舌、旨い飯」って、すごく居酒屋らしい三つですね。お夏さんはどんな人なんですか。常連さんに愛されているんでしょうね。
佐藤メバル
店を構えて客を迎える人で、絶妙な居心地の良さで男女が集まってくる。今回、お夏は目黒の豪傑として知られる初老の剣客の言動に胸騒ぎを覚える。
弟子の活躍で声望を高めていた男に、何かがあるんじゃないか、と。
橘ナナミ
強い人が静かに翳っていく話、いいですね。意外な理由でみんなが騒然とする、と紹介文にあって気になります。
佐藤メバル
そう、そこが落としどころだ。店の賑わいと、剣客の翳りの落差がこの話の旨さだね。新章の第二弾だから前巻の人間関係を知っているとより楽しいけれど、一篇ずつ読める。
酒と飯の描写がいいから、夜に読むと食べたくなる。そこは覚悟してほしい。
狸穴あいあい坂
諸田玲子 著|集英社
¥836(税込)
かつて火盗改与力として豪腕をふるった祖父と暮らす結寿。ひょんなことで知り合った隠密廻り・妻木と共に、麻布狸穴界隈で起きる不思議な事件の解決に力を尽くす連作時代小説。事件を追ううちに距離が縮まる二人の関係が軸で、ほのぼのとした空気が全体を包む。解説は青木千恵。江戸の町名を歩くように読めるのも嬉しい。
こんな人におすすめ
ほのぼのした連作時代小説を読みたい人。事件と恋の両方を味わいたい読者。江戸の町名や界隈の空気が好きな人。短編を少しずつ読み進めたい人へ。狸穴という地名の響きに惹かれる人なら、なお楽しい。
良い点
- 事件と恋のバランスがいい
- 狸穴界隈の情景が楽しい
- 連作短編で読みやすい
気になる点
- 大きな事件は起きない
- 恋の進展はゆっくり
- 派手な剣戟はない
出版社
集英社
発売日
2010年09月17日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「事件が恋を深めていく」って、物語の紹介としてすごくいいですね。ほのぼの系なんですか?結寿さんと妻木さんの距離感が気になります。
佐藤メバル
そう、ほのぼのとした連作だね。主人公は結寿で、かつて火盗改与力として豪腕をふるった祖父と暮らしている。
ひょんなことから隠密廻りの妻木と知り合って、麻布狸穴界隈で起きる不思議な事件を一緒に解決していく。事件を重ねるうちに二人の距離が縮まる、というのが読みどころだよ。
橘ナナミ
隠密廻りの人と一緒に事件を解くなんて、ちょっと背伸びしている感じもかわいいですね。どんな事件が出てくるんですか。
佐藤メバル
大きな事件というより、界隈で起きる不思議な出来事が中心だね。だから怖さより、江戸の町の空気と二人の掛け合いを楽しむ本だ。
解説を青木千恵さんが書いている。少しずつ読み進めたい人にちょうどいい分量だよ。
嶽神伝 鬼哭 上
長谷川卓 著|講談社
¥770(税込)
家臣同士の領地争いに怒った越後の長尾景虎は、出奔し、山の者の許へ身を寄せる。景虎の命を狙って武田最凶の忍びたち、さらには北条の風魔が動き出し、無坂らは景虎を守るべく死闘に身を投じる。争いのなか、南稜七ツ家が現れる。歴史の表舞台と山の者の世界が交差するシリーズ第三弾、上巻。章立ては「景虎出奔」「龍穴」「狐道」と、伝奇の匂いが濃い。
こんな人におすすめ
忍びと山の者を描いた伝奇的な時代小説が好きな人。長尾景虎の若き日に関心がある読者。スケールの大きい戦いを読みたい人。シリーズを追っている人へ。上巻なので、下巻と合わせて読む前提で手に取るのがいい。
良い点
- 山の者と忍びの世界観が濃い
- 景虎の出奔という題材が魅力的
- 死闘の描写に力がある
気になる点
- 三作目で前提知識が必要
- 上巻のため結末は次巻
- 歴史用語が多い
出版社
講談社
発売日
2017年01月13日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「山の者」って何ですか?忍者とはまた違う、この作品ならではの存在なんですか?タイトルからすると、かなり伝奇色が強そうですね。
佐藤メバル
この作品の世界観の核になる存在だね。長尾景虎は家臣同士の領地争いに怒って出奔し、山の者の許へ身を寄せる。
そこへ景虎の命を狙って、武田最凶の忍び、さらに北条の風魔が動き出す。歴史の表舞台と、山の者の暮らす別の世界が交差するのが面白さだよ。
橘ナナミ
無坂さんたちが、景虎を守るために死闘に身を投じるんですね。上巻なので、結末は次に持ち越しなんですか?
佐藤メバル
そう、上巻だから結末は次に持ち越す。目次を見ると「景虎出奔」「龍穴」「狐道」と、章の名前からしてもう伝奇の匂いがする。
南稜七ツ家が現れるところも含めて、シリーズの広がりを感じさせる。三作目なので前二作の世界観を押さえておくと、より深く入っていけるよ。
完結・継続中・新刊ペース——「走り切れるか」で選ぶ
橘ナナミ
途中で止まってしまうシリーズもあると聞きました。
佐藤メバル
だからまず「完結しているか」を見る。確かなところでは、『極道大名』は三巻でついに完結、『はやぶさ新八御用帳』は十で完結、『旅立ちの空 お江戸縁切り帖』は最終巻として出ている。続いているほうは、『渡世人 大江戸閻魔帳(三)』がシリーズ最新作、『雪見酒 居酒屋お夏 春夏秋冬』は新章第二弾、『怪異名所巡り』は第十三巻だ。刊行ペースは作品ごとに違うから、新刊予定は版元の情報で確認するのが確実だね。
橘ナナミ
止まって見えるシリーズは、もう終わりと考えていいんですか?
佐藤メバル
休止なのか完結なのか、外からは分からないことが多い。だから私は巻数ではなく「最新刊がいつ出たか」を見るようにしている。それで今走っているかを判断して、追いかけ方を決めるんだ。
読む順番・スピンオフ・稼業別の相関マップ
橘ナナミ
読む順番に迷ったらどうすれば?
佐藤メバル
第一弾が明記されているものは、そこから。『震える岩』は霊験お初シリーズ第一弾、『密封 奥右筆秘帳』は新シリーズ開幕、『楊令伝 1 玄旗の章』は第1巻だ。一方、佐伯泰英の赤目小籐次は、『竜笛嫋々新装版』が第八弾、『春雷道中新装版』が第九弾、『酔いどれ小籐次留書 政宗遺訓』が第十八弾——各巻で事件が起きて区切りがつくので、手に取れた巻から入っても成立しやすい。
橘ナナミ
同じ作家の別シリーズを並べて読むのも面白そうですね。
佐藤メバル
風野真知雄なら『隠密 味見方同心』『逃がし屋小鈴』『大名やくざ』『極道大名』、鳥羽亮なら『はぐれ長屋の用心棒』と『剣客春秋』、上田秀人なら『奥右筆秘帳』と『百万石の留守居役』——作家で棚をひとつ作ると、世界観の違いがよく見える。風野真知雄は「この時代小説がすごい!2016年版」の作家別ランキング1位に挙がった人でもある。
橘ナナミ
女性が主人公のものもあるんですか?
佐藤メバル
『霊験お初捕物控』のお初、『逃がし屋小鈴』の小鈴、『旅立ちの空 お江戸縁切り帖』の縁切り屋・お糸、平安後宮を舞台にした『平安あや解き草紙 〜その女人達、故あり〜』の伊子。時代も江戸に限らない——『嶽神伝』は戦国、『寄席品川清州亭』は幕末の品川宿だ。テーマで引くなら、料理は『隠密 味見方同心』、怪異は『怪異名所巡り』と『震える岩』、幕政の闇は『密封 奥右筆秘帳』。切り口を決めると、ぐっと選びやすくなるよ。
全巻コスト・入手手段・映像化の調べ方
橘ナナミ
全巻揃える費用の目安はありますか?
佐藤メバル
巻数×一冊の価格だから、巻数が進んだシリーズほど総額は上がる。ただ、いきなり全巻は要らない。第一巻を図書館で試して、合えば電子、どうしても手元に置きたければ紙——この順番なら失敗が少ない。電子やサブスクの対応は入れ替わるので、買う前に必ず検索して確認してほしい。
橘ナナミ
映像化された作品から入るのはどうでしょう?
佐藤メバル
原作の人物像と映像の印象は往々にして違う。だからこそ、池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』が「鬼平犯科帳」「剣客商売」と並び称される所以を、まず原作の第一弾で自分の目で確かめるのがおすすめだ。映像化や大河の情報は版元・公式サイトで確認するのが確実だよ。
よくある質問
時代小説シリーズは途中の巻から読んでも大丈夫ですか?
橘ナナミ
時代小説シリーズは途中の巻から読んでも大丈夫ですかについて教えてください。
佐藤メバル
形式によります。『隠密 味見方同心(五) フグの毒鍋』のように一話ずつ完結する短編や、『はやぶさ新八御用帳(十) 幽霊屋敷の女』のような連作短編は途中からでも入りやすいです。一方、『震える岩 霊験お初捕物控』(シリーズ第一弾)、『密封 奥右筆秘帳』(新シリーズ開幕)、『楊令伝 1 玄旗の章』(第1巻)は、第一巻から読むのが安心です。目次で区切りの多さを確かめるのが見分け方です。
初心者におすすめの時代小説シリーズ第一巻はどれですか?
橘ナナミ
初心者におすすめの時代小説シリーズ第一巻はどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
第一弾・第一巻が明示されているものから選ぶと迷いません。宮部みゆき『新装版 震える岩 霊験お初捕物控』、奥山景布子『寄席品川清州亭』、上田秀人『密封 奥右筆秘帳』、池波正太郎『新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一)』あたりが入り口になります。
完結済みで一気読みできる時代小説シリーズはありますか?
橘ナナミ
完結済みで一気読みできる時代小説シリーズはありますかについて教えてください。
佐藤メバル
『極道大名(3)』は「ついに完結」と案内されている三巻完結、『新装版 はやぶさ新八御用帳(十) 幽霊屋敷の女』は(十)で堂々の完結、泉ゆたか『旅立ちの空 お江戸縁切り帖』は最終巻です。先の終わりが見えているぶん、一気読みの安心感があります。
長すぎるシリーズで挫折しそうなときの対処法はありますか?
橘ナナミ
長すぎるシリーズで挫折しそうなときの対処法はありますかについて教えてください。
佐藤メバル
いったん短編の巻に戻るのが有効です。たとえば『はやぶさ新八御用帳(十) 幽霊屋敷の女』は六編収録、『隠密 味見方同心(五) フグの毒鍋』は四話収録で、一話ずつ読める。通しで読む巻と短編の巻を行き来すると息が切れません。最新刊の発売時期を版元で確認して、追いかけ方を決めるのも手です。
Kindle Unlimitedや電子書籍で読める時代小説シリーズはありますか?
橘ナナミ
Kindle Unlimitedや電子書籍で読める時代小説シリーズはありますかについて教えてください。
佐藤メバル
サブスクの対象は時期によって入れ替わるため、この記事の情報だけで断定はできません。読みたいシリーズ名で書店サイトを検索し、電子版の有無と対象状況を確認してください。まずは図書館で第一巻を試すのも現実的な入口です。
大河ドラマや映画の原作になった時代小説シリーズはどれですか?
橘ナナミ
大河ドラマや映画の原作になった時代小説シリーズはどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
映像化の情報は作品ごとに変動するため、当記事の情報だけでは断定できません。版元や公式サイトで確認するのが確実です。原作から入る場合は、『仕掛人・藤枝梅安』が「鬼平犯科帳」「剣客商売」と並び称される所以を第一弾で確かめるように、原作の第一巻から人物像をつかむと、映像との違いも楽しめます。
時代小説シリーズを全巻揃えると費用はどのくらいかかりますか?
橘ナナミ
時代小説シリーズを全巻揃えると費用はどのくらいかかりますかについて教えてください。
佐藤メバル
巻数×一冊の価格が総額の目安です。文庫は手に取りやすい価格帯のものが多い一方、単行本で出ているものは価格が上がります。いきなり全巻を買わず、図書館で試してから電子、そして紙へ、と段階を踏むのが失敗の少ない買い方です。
1話完結で通勤中に読みやすい時代小説シリーズはありますか?
橘ナナミ
1話完結で通勤中に読みやすい時代小説シリーズはありますかについて教えてください。
佐藤メバル
『隠密 味見方同心(五) フグの毒鍋』は「馬鹿弁当」「フグの毒鍋」など四話がそれぞれ完結し、『はやぶさ新八御用帳(十) 幽霊屋敷の女』は六編収録、『狸穴あいあい坂』は麻布狸穴界隈の事件を一話ずつ解く連作です。一話の長さで区切れるので、降車駅で自然に本を閉じられます。
まとめ
橘ナナミ
佐藤さん、今日の話で「どこから読むか」の悩みが軽くなりました。1話完結度、完結しているか、主人公の稼業、入手手段——この順番で考えればいいんですね。
佐藤メバル
そう。それに、最初から正解を探さなくていい。合わなければやめてもいいし、シリーズは逃げないからね。
橘ナナミ
やめていいと言われると、逆に安心します。私、いま『隠密 味見方同心』の「馬鹿弁当」から読んでみたくなっています。短編なら通学の電車でも読めそうです。
佐藤メバル
いいね。短編でリズムをつかんだら、『震える岩』のような連作、そして『楊令伝』のような長編へ。階段を上がるように深くなるから、焦らなくていい。
橘ナナミ
なるほど……シリーズって、江戸の長屋の路地に似ているのかもしれないですね。どの戸口から入っても、奥で同じ井戸端につながっていて、一度名前を覚えてもらえば、あとは何度でも遊びに行ける。
佐藤メバル
うん、いい例えだ。その最初の戸口を、今日の記事で見つけてもらえれば嬉しいね。
