小説泣ける本のおすすめ人気ランキング25選【2026年版】
監修

佐藤メバル
@shelfy_mebaru
編集長。あらゆるジャンルの本を年間数百冊読み込む本のプロ。投資・経営から小説・実用書・絵本まで、良書と読者の相性を見抜く。

橘ナナミ
@medias_nanami
編集部の新人インターン。22歳の大学院生で、メディア論を研究中。「それ気になります!」が口癖の天然キャラ。読者の素朴な疑問を代弁する役割で、各メディアの専門家にいろんなジャンルの素朴な質問をぶつけていく。
最終更新: 2026年10月
橘ナナミ
佐藤さん、「泣ける小説」で検索するとランキングがいくつも出てくるんですけど、並んでいる作品がどれも同じで……しかも「絶対泣ける」と書いてあるのに、レビューには「泣けなかった」という声もあって、何を信じればいいのか分からなくなりました。
佐藤メバル
いいところに目をつけたね。泣けるかどうかは作品の質だけでは決まらない。読む人の今の状態で、同じ本が号泣にも静かな共感にも変わるんだ。書店員をしていた頃、同じ文庫を「電車で泣いてしまった」と返す常連さんと、「淡々と読めた」と話す人が隣に並んでいた。どちらも正しい感想なんだよ。
橘ナナミ
泣き方のタイプがある、ということですか。私、映画でも「ここで泣く場面」と分かっているところでは泣けなくて、ぜんぜん関係ない小さな台詞で急に来るんです。
佐藤メバル
それも立派なタイプ。人は大きな悲劇より、日常の小さな落差で涙腺がゆるむことが多い。だからこの記事では順位より先に、選び方の軸を6つ共有しておこう。理由・涙の質・読書体力・読後感・入手形式・立場。ここを押さえれば外れはぐっと減る。
橘ナナミ
なるほど! ではその6つ、ひとつずつ教えてください。
小説泣ける本の選び方
泣きたい理由から逆引きする
橘ナナミ
「理由」から選ぶって、どういうことでしょう。
佐藤メバル
喪失なら『九年前の祈り』、家族なら『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』や『三軒茶屋星座館 冬のオリオン』、恋愛なら『その10文字を、僕は忘れない』、戦争なら『原民喜戦後全小説』、動物なら『小説 ゆずのどうぶつカルテ』、赦しなら『刑事のまなざし』。自分の痛みに近い棚から選ぶと、涙は自然に出る。
橘ナナミ
逆に遠いテーマだと、お話は面白くても涙は出ないんですね。
涙の質で選ぶ
橘ナナミ
「号泣」と「じんわり」って、選び分けられるんですか?
佐藤メバル
できるよ。声を上げて泣きたいなら『輝く夜』や『この空の彼方にいるきみへ、永遠の恋を捧ぐ。』、じんわり沁みたいなら『星の王子さま』や『霧のむこうのふしぎな町』、胸が痛む種類なら『二日月』や『ノルウェイの森』。怒りからくる涙なら『金色夜叉』、祝福の涙なら『はじめましてを、もう一度。』や『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』だね。
読書体力で選ぶ
橘ナナミ
泣きたいのに長い本だと、途中で疲れちゃいそうで。
佐藤メバル
なら分けて考えるといい。1話10〜30分で区切れる短編なら『刑事のまなざし』や『輝く夜』、『九年前の祈り』。数時間で一気に読む中編なら『その10文字を、僕は忘れない』や『小説の神様』『はじめましてを、もう一度。』。まとまった時間を確保できる日に長編——『ノルウェイの森』や『次郎物語』を。『金色夜叉』は漫画化で1時間余で読み通せる形になっている。
読後感で選ぶ
橘ナナミ
読んだ後に落ち込むのは避けたいです。
佐藤メバル
なら読後感で選ぼう。救われたいなら『星の王子さま』や『銀河ホテルの居候 あのときの夕日を胸に』、余韻に浸りたいなら『霧のむこうのふしぎな町』、苦味が残るのも味と思えるなら『ノルウェイの森』、前を向きたいなら『さいとう市立さいとう高校野球部』や『その一秒先を信じて アカの篇』だね。
入手形式で選ぶ
橘ナナミ
紙じゃないと泣けない、とかありますか?
佐藤メバル
ある。紙はページをめくる手の速度で感情の間が生まれる。電子は移動中でも読みやすく、音声は朗読の声で泣きどころが変わる。図書館なら失敗が怖くない。映像化された作品——『小説の神様』のように映画になったもの、『表参道高校合唱部!』のようにテレビドラマから生まれたものは、触れる順番で印象が変わるよ。
立場・年代で選ぶ
橘ナナミ
10代と50代では、刺さる本が違いますよね。
佐藤メバル
中高生なら『星の王子さま』『二日月』『小説 ゆずのどうぶつカルテ』、大学生や社会人なら『その10文字を、僕は忘れない』『小説の神様』、親や介護の立場なら『九年前の祈り』『次郎物語』、時代小説の情緒なら『涙雨の刻』。立場が変わると同じ本が別の本になる、それが小説の面白さだね。
小説泣ける本をひと目で比較
橘ナナミ
えっ、25冊もあるんですか!?まずどう見ればいいんですか?
佐藤メバル
焦らず焦らず(笑)。まずはこの一覧で全体像を眺めてみよう。価格・著者・対象読者をまとめて見られるから、自分に近そうなのが分かるはず
小説泣ける本のおすすめ人気ランキング
橘ナナミ
一覧だけだとピンと来ないので...1冊ずつ詳しく教えてください!
佐藤メバル
よし、それじゃあ1位から順に1冊ずつ解説していこう。各冊どんな人に向いてるかも合わせて話すから、自分に合いそうなのを見つけてほしい
金色夜叉
のぞゑのぶひさ 著|幻冬舎
¥1,870(税込)
誰もがタイトルだけは知る『金色夜叉』を、のぞゑのぶひさが初めて完全漫画化した一冊。金持ちを選んだお宮と、失恋して復讐を誓う貫一。読みづらさの壁を越えて一時間余で読み通せる形にし、原作が未完のまま残された物語に結末を与えている点が大きい。映画化が途絶えて「忘れられた名作」になった理由も、頁をめくれば腑に落ちる。古典が苦手な人ほど刺さる、現代の泣けるエンタメ。
こんな人におすすめ
文学史の年表で名前だけ見て素通りしてきた人、活字の古典で挫折した経験がある人、短い時間で濃い物語に浸りたい人。誰かに勧められたけれど手が出なかった人にも。漫画から古典に入る入口を試したい読者にもいい。
良い点
- 漫画で一気に読み通せる
- 未完の原作に結末を与えた
- 貫一とお宮の心理が濃い
気になる点
- 原作の文体を味わう人には物足りない
- 漫画で読むことに抵抗があると不向き
- 時代背景の説明は最小限
出版社
幻冬舎
発売日
2024年09月19日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「金色夜叉」って名前だけは知ってるんですけど、教科書の文学史で見たきりで、正直どんな話か全然知らないんです。それ気になります!
佐藤メバル
それこそがこの本の狙い目だね。原作は読みづらくて挫折する人が多く、現代では意外にストーリーが知られていない。
だから漫画化に挑んだわけで、しかも未完の原作に結末までつけている。貫一の「そんなに金持ちが好きか」という叫びから物語が動き出すんだよ。
橘ナナミ
未完だったんですか! じゃあ漫画のラストは、原作には存在しなかった結末ということですよね。そこは読むときに意識したほうがいいんでしょうか。
佐藤メバル
意識して読むと面白いよ。金持ちを選んだ女の運命と、失恋した男の復讐、二つの軸が絡み合って進む。戦後に映画化が途絶えて「忘れられた名作」になった理由も、読めば腑に落ちる。
まずは肩の力を抜いて、通して読んでみてほしい。
ノルウェイの森(上)
村上春樹 著|講談社
¥1,760(税込)
村上春樹が「これまでに一度も書かなかった種類の小説」「百パーセントの恋愛小説」と自ら語った作品の上巻。激しくて、物静かで、哀しい。古ぼけた呼び名だと断りながら恋愛小説を選んだ作家の言葉が、そのまま読む理由になる。下巻と併せて読むことで、喪失の重さが立体的に立ち上がる。派手さではなく余韻で泣かせるタイプの一冊。
こんな人におすすめ
恋愛小説を甘いだけと決めつけてきた人、静かな喪失感をことばで味わいたい人、村上春樹を名前だけ知っている入門者。夜、ひとりでゆっくり読みたい時間に向く。上下巻を通して読む覚悟がある人なら、なおいい。
良い点
- 作家自身の言葉が強い
- 余韻で泣かせる
- 上巻で世界に入りやすい
気になる点
- 上下巻で長い
- 好みがはっきり分かれる
- 派手な展開は少ない
出版社
講談社
発売日
1987年09月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
村上春樹さんって名前は知ってますけど、読んだことはなくて。これ、恋愛小説なんですね。もっと難解なイメージがありました。
佐藤メバル
本人が「ひどく古ぼけた呼び名だけれど、それ以外にうまい言葉が思いつけない」と書いている、まさに恋愛小説だよ。
激しくて、物静かで、哀しい。上巻だけでも十分引き込まれるから、まずそこから試してみるといい。
橘ナナミ
上巻だけ読んで満足しちゃうのはもったいないんでしょうか。それとも、上下巻を続けて読んだほうが物語の印象は変わるんでしょうか。
佐藤メバル
続けて読むほうがいいね。上巻で人間関係の輪郭をつかんで、下巻で喪失の重さが効いてくる。事件で泣かせる話ではなくて、読後の静かな痛みが残るタイプなんだ。
だからこそ、時間のあるときにまとめて読んでほしいと思う。
星の王子さま
アントワーヌ.ド・サン=テグジュペリ 著|講談社
¥748(税込)
青い鳥文庫版で、オールふりがな付き、読みやすさを優先した一冊。王子さまと「ヒツジの絵を描いて」というやりとりから物語が始まる。三田誠広の訳で、たいせつなことは見えないという主題が子どもにも届く言葉になっている。特製ポストカード付きという造本もうれしい。大人が読み返すと刺さり方が変わる、長く手元に置きたい名作。
こんな人におすすめ
子どもに名作を渡したい人、読み聞かせの時間をつくりたい人、久しぶりに名作を手に取りたい大人。全漢字にふりがながついているので、読書がまだ得意でない子が一人で読む最初の一冊にもちょうどいい。
良い点
- 全漢字にふりがな付き
- 特製ポストカード付き
- 短く読み返しやすい
気になる点
- 大人向けの訳と比べると簡素
- 挿絵の好みが分かれる
- 物語は淡々と進む
出版社
講談社
発売日
2006年11月16日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これ、全部の漢字にふりがながついてるんですね。子ども向けの本だとして、大人が読んでも意味はあるんでしょうか。
佐藤メバル
意味はあるよ、というより大人こそ刺さる。王子さまが「ヒツジの絵を描いて」と頼む場面から始まるんだけど、見えないものを大切にする話だから、読む年齢で受け取り方が変わる。
ポストカードが付いているのも、手元に置いて何度も開いてほしいという造りの心意気だね。
橘ナナミ
訳者によって雰囲気が違うと聞いたことがあります。この三田誠広さんの訳は、どんな感じの文章なんでしょうか。
佐藤メバル
子どもが読み通せることを優先した、素直でやわらかい訳だよ。ふりがながあるから、一人で読む最初の名作にもちょうどいい。
読み聞かせで使ってから、大きくなって自分で読み返す、という二度の楽しみ方ができる一冊だね。
次郎物語(上)
下村湖人 著|講談社
¥902(税込)
乳母のお浜に愛されて育った次郎が、五歳で生家に戻され、口やかましい母になじめず、分け隔てする祖母を憎みながら育つ物語。週に一度帰ってくる父のやさしさだけが救い。愛され方を知らない子の成長を描いた不朽の名作で、上巻はとくに不遇の時期が丁寧に描かれる。家族や教育を考える人にも読み応えがある。
こんな人におすすめ
家族の在り方を考えたい人、子ども時代の理不尽を思い出したい人、少年の成長を長い時間かけて追いたい人。古い作品を今読む意味を確かめたい読者にも。上巻から入って、気に入ったら続ける読み方でいい。
良い点
- 少年の心理描写が細かい
- 乳母お浜が魅力的
- 続巻で成長が追える
気になる点
- 時代背景に馴染みが必要
- 上巻は辛い展開が続く
- 文体がやや古い
出版社
講談社
発売日
1989年06月08日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
次郎って、生まれた家に戻されたのに、そこで馴染めないんですね。いきなり知らない家族の中に放り込まれる感じ、想像するとしんどいです。
佐藤メバル
まさにそのしんどさがこの小説の核なんだ。乳母のお浜に全身で愛されて育った子が、生家では母になじめず、祖母は分け隔てする。
父が帰ってくる日だけが救いという構造が、次郎の心の動きをくっきり見せる。長く読まれてきただけのことはあるよ。
橘ナナミ
上巻は、まだ小さい頃の話が中心なんですよね。読んでいてつらくなりすぎることはないんでしょうか。救いはありますか。
佐藤メバル
救いはちゃんとあるよ。父のやさしさ、そしてお浜という存在が、次郎の中に愛の原型として残り続ける。不遇の中でも、人の善意が確かに積み重なっていく。
だから読後感は暗くない。続巻で彼がどう育つかまで見届けてほしい。
その10文字を、僕は忘れない
持崎湯葉 著|集英社
¥660(税込)
一日に十文字しか話せない少女・宮崎菫と、彼女に惹かれていく少年の物語。スケッチブックで会話する菫は教室で浮いた存在だが、不器用でも懸命に対話しようとする姿が胸を打つ。「ありがとう」も「ごめんなさい」も十文字で伝えられると思っていたのに、彼女が背負う過去の痛みに気づけなかった。雨宿りの出会いから始まる青春ラブストーリー。
こんな人におすすめ
短い言葉の重みを感じたい人、学校でうまく馴染めなかった記憶がある人、すれ違いと和解で泣きたい人。青春ラブストーリーを久しぶりに読みたい大人にも。言葉を選ぶことの難しさを、物語で確かめたい人に向く。
良い点
- 設定が切実で印象的
- 菫の心情が丁寧
- 会話の工夫が心に残る
気になる点
- すれ違いがもどかしい
- 青春ものの王道展開
- 結末の好みが分かれる
出版社
集英社
発売日
2016年07月22日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
一日に十文字しか話せないって、すごい設定ですよね。それ以上は声にならないって、どういう状態なんだろうって考えちゃいます。
佐藤メバル
そこは作中で彼女が抱えるものとして丁寧に書かれているよ。大事なのは設定そのものより、十文字に何を込めるかという彼女の真剣さなんだ。
スケッチブックで会話し、それでも伝えようとする姿に、語り手の少年が惹かれていく。雨宿りの場面からもう目が離せない。
橘ナナミ
最後はやっぱり泣ける感じですか。それとも、もやもやが残るタイプの青春小説なんでしょうか。そこが知りたいです。
佐藤メバル
泣けどころはしっかり用意されている。ただ、ただの甘い話ではなくて、菫が背負っている過去の痛みと、隣にいることの意味を主人公が問われる話なんだ。
だから涙のあとに、言葉を選ぶことの難しさが残る。そういう後味が好きな人にはたまらないと思うよ。
はじめましてを、もう一度。
喜多喜久 著|幻冬舎
¥825(税込)
高校二年のリケイ男子・北原恭介が、クラスの人気者・佑那から突然告白されるところから始まる。断ったら夢のお告げで「死んじゃう」らしいという奇妙な前提で関係がスタートし、想いが深まるほど、夢の話には裏があることが見えてくる。彼女が言えずに抱えていた秘密とは何か。恋愛と謎解きを同時に味わえる、泣けるラブミステリー。
こんな人におすすめ
恋愛と謎解きの両方が好きな人、先の読めない展開を楽しみたい人、理系の主人公の視点に親しみを覚える人。高校生の恋を読みたい大人にも。秘密の明かし方を味わいたい読者にも向く。
良い点
- 恋愛と謎解きの配分がいい
- 主人公の視点が親しみやすい
- 秘密の明かし方が巧い
気になる点
- 序盤の設定が突飛
- ミステリ重視だと物足りない
- 展開が早い
出版社
幻冬舎
発売日
2021年04月08日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
夢のお告げで死んじゃうかもしれないって、ずいぶん不思議な設定から始まるんですね。これってファンタジー寄りの話なんでしょうか。
佐藤メバル
入り口はファンタジーみたいに見えるけど、読み進めるとちゃんと地に足がついていく。夢の話には裏があるというのがこの本の肝で、佑那が言えずに抱えていた重大な秘密にたどり着くまでの構成が巧い。
恋愛の甘さとミステリの緊張感を同時に味わえる、欲張りな一冊だよ。
橘ナナミ
主人公が理系の男の子なんですね。私、大学院で研究してるので、その視点はけっこう気になります。共感できるところ、ありますか。
佐藤メバル
あると思うよ。彼は感情を理屈で組み立てようとするところがあって、その不器用さが恋の進み方を少しずつ歪めていく。
理屈で説明できないものに直面したとき、人がどう動くか。そこが読みどころだから、研究をしている橘さんには刺さるはずだよ。
毎年、記憶を失う彼女の救いかた
望月拓海 著|講談社
¥792(税込)
毎年、両親の事故死直後に記憶が戻ってしまう少女と、正体不明の小説家の賭けを描く。彼女が抱えるのは空白の三年という設定が痛い。「一ヵ月デートして、ぼくの正体がわかったら君の勝ち」という賭けが、恋と謎を同時に進ませる。メフィスト賞を受賞した作品で、すべての伏線が愛へ収束していく構成が光る。
こんな人におすすめ
伏線回収の快感を味わいたい人、記憶をめぐる恋愛物語が好きな人、最後にきれいに泣きたい人。受賞作から読み始めたい読者にも向く。一冊で謎と恋を同時に味わいたい人に。
良い点
- 伏線の回収が気持ちいい
- 設定が切実
- 受賞作の完成度
気になる点
- 設定の説明がやや多い
- 中盤は少し停滞する
- 真相の好みが分かれる
出版社
講談社
発売日
2017年12月22日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
毎年記憶が戻ってしまうって、しかも三年分の空白があるんですね。積み重ねた関係が毎回リセットされるってことですよね。考えるだけで切ないです。
佐藤メバル
そう、そこがこの本のいちばん痛いところだね。しかも彼女は記憶を失った状態で、見知らぬ小説家から賭けを持ちかけられる。
信じる根拠を毎年失うという構造が、後半の伏線の効き方を何倍にもしている。メフィスト賞を受けただけあって、仕掛けの組み立てが丁寧だよ。
橘ナナミ
タイトルの「救いかた」という言葉も気になります。これは、誰が誰を救う話なんでしょうか。そこを読み解くのもポイントですか。
佐藤メバル
そこを読むのが醍醐味だよ。彼女を救おうとしているように見えて、実は救われているのはどちらなのか。読者は最後までその向きを迷う。
静岡書店大賞でも評価されている作品だから、記憶をめぐる恋の物語が好きなら外さないと思う。
この空の彼方にいるきみへ、永遠の恋を捧ぐ。
涙鳴 著|スターツ出版
¥638(税込)
母親の死後、父親からの暴力に耐えていた高一の美羽が、家を飛び出す。居場所を失った彼女を救うように現れた先輩・棗は、病を抱え、残された時間が短い。救い合おうとして救いきれない二人の関係が、最後まで読者を離さない。家を失った側と、時間を失った側という対称的な痛みが重なる、究極の恋物語。
こんな人におすすめ
切ないラストを覚悟して泣きたい人、家や家族に居場所を感じられなかった経験がある人、若い恋の物語を読みたい読者に。短いので、気持ちに余白のある日に開きたい一冊。重い題材をきちんと受け止めたい人にも。
良い点
- 痛みの対称性が巧い
- ラストの余韻が強い
- 短く読みやすい
気になる点
- 題材が重い
- 展開は王道
- 救いの量は好みで分かれる
出版社
スターツ出版
発売日
2018年04月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
家庭の話と、病気の話が同時に出てくるんですね。重たいものが二つ重なるのって、読んでいて苦しくなりませんか。
佐藤メバル
苦しくなるよ、正直に言うと。でも美羽は家を飛び出して、棗という居場所を見つける。その棗にも残された時間が短いという問題がある。
救う側と救われる側が入れ替わり続けるから、単純な悲恋では終わらない。タイトルの「永遠の恋」という言葉が、ラストで意味を持ってくるんだ。
橘ナナミ
じゃあ、泣く前提で読む本なんですね。読むときは、心に余裕があるときにしたほうがよさそうですね。
佐藤メバル
うん、そう思うよ。身近な人を思い浮かべたくなる一冊だから、気持ちに余白のある日に開くのがいい。短いけれど、読後は少しぼんやりしたくなる。
そういう時間を自分に許せる日がおすすめだね。誰かに会いたくなる本でもある。
奈落の底で、君と見た虹
柴山ナギ 著|幻冬舎
¥737(税込)
ネトゲ廃人やホームレス予備軍が集まる最底辺のネットカフェで深夜働く蓮の前に、場違いな美少女・美憂が現れる。余命三カ月の父親のためにマンションを処分した彼女には、他に身寄りがない。二人で父親の過去を辿るうち、美憂の出生や母の秘密が浮かび上がっていく。場所の暗さと物語の温かさの落差が効いた、ラスト号泣必至の青春小説。
こんな人におすすめ
居場所のない感覚を抱えたことがある人、暗い舞台から光を見たい人、家族の秘密をめぐる物語が好きな読者に。短くテンポがいいので一気に読める。ラストの畳みかけを味わいたい人にも向く。
良い点
- 舞台設定が鮮烈
- 秘密の解明が引き込む
- ラストの情感が強い
気になる点
- 題材がハード
- 主人公の境遇が重い
- 展開が早い
出版社
幻冬舎
発売日
2021年01月14日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
ネトゲ廃人とか、ホームレス予備軍とか、舞台がけっこうぎりぎりですね。そういう場所から始まる青春小説って、珍しい気がします。
佐藤メバル
そこがこの本の持ち味だよ。通称「この世の果て」と呼ばれる場所に、場違いな美少女がやってくる。場所が暗いほど、光の当たり方がくっきりする。
二人が父親の過去を辿ることで、美憂の出生や母の秘密が見えてくる構成も巧い。ラストの畳みかけは覚悟したほうがいい。
橘ナナミ
その二人の関係って、恋愛に発展するんでしょうか。それとも、もっと別の種類の絆として描かれるんでしょうか。そこも気になります。
佐藤メバル
恋愛として読めるし、それだけじゃないものが混ざっている。お互いに欠けているものを補い合う関係だから、呼び名をつけるのが難しいんだよね。
タイトルの「虹」がどこで出てくるか、そこを意識して読むと後半の景色が変わるよ。
涙雨の刻
小杉健治 著|二見書房
¥712(税込)
居合の達人で三味線の名手でもある矢内栄次郎が、奉行所の仕事ではないと断り付きで、与力の崎田孫兵衛から奇妙な依頼を受ける。京橋の薬種問屋の隠居が若い女と暮らし始め、一カ月余り連絡をよこさない。その真相を探れという依頼の裏側に、人情と泪が待っている。剣と情の両方が効く、小杉健治の時代小説。
こんな人におすすめ
時代小説に入門したい人、剣客ものの人情を味わいたい人、短い時間で一編を読み終えたい読者。雨や三味線といった音の描写が好きな人にも。寝る前に少しずつ読む読み方にも向く。
良い点
- 主人公の人物像が魅力的
- 謎の運びが丁寧
- 人情の描写が濃い
気になる点
- 時代設定の知識が多少必要
- 派手な立ち回りは少なめ
- 連作の予備知識があると尚可
出版社
二見書房
発売日
2016年01月25日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
時代小説って、私あまり読んだことがなくて。用語が難しいと途中で止まっちゃいそうで不安なんですけど、これは入りやすいですか。
佐藤メバル
入りやすいほうだと思うよ。まず依頼の中身が見た目よりずっと人間くさい。隠居が若い女と暮らし始めて連絡を断った、その真相を探ってほしいという。
居合の達人であり三味線の名手という主人公の二面性が、事件の見え方を変えていく。謎解きとして読んでも十分に面白い。
橘ナナミ
三味線っていう要素が意外で気になります。剣の達人なのに三味線の名手でもあるって、それが物語にどう効いてくるんでしょう。
佐藤メバル
そこが味なんだよ。剣は人を断つ力、三味線は人の心に触れる力。両方を持つ人物だからこそ、事件の裏にある情が見えてくる。
江戸の町の湿った空気と、雨の描写が効いた一編だよ。短いので、寝る前に少しずつ読むのもいい。
表参道高校合唱部! 涙の数だけ強くなれるよ
櫻井剛 著|Gakken
¥1,430(税込)
表参道高校に転校した香川真琴が合唱部に入部するところから始まる。ところが部は人数不足で廃部寸前。部員を集めるところから物語が動くという、青春ものの王道をきっちり踏む構成が気持ちいい。テレビドラマとして中高生に人気になった物語が、小説として読めるようになった一冊。歌の力が奇跡を起こす瞬間が、活字で立ち上がる。
こんな人におすすめ
合唱や部活ものが好きな人、ドラマを見て物語をもう一度追いたい人、仲間が増えていく過程を読みたい読者に。中高生はもちろん、部活の記憶がある大人にも。歌の場面を文章で味わいたい人に向く。
良い点
- 王道の部活ストーリー
- 歌の場面が映像的
- 読みやすい文体
気になる点
- 展開は予想の範囲内
- ノベライズゆえ説明多め
- 厚めの造本
出版社
Gakken
発売日
2016年02月02日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これ、テレビドラマの小説版なんですよね。私はドラマを見ていなかったんですけど、いきなり読んでも大丈夫なんでしょうか。
佐藤メバル
大丈夫、むしろ物語として独立している。転校してきた真琴が合唱部に入るんだけど、人数不足で廃部寸前。部員を集めるところから始まるから、人間関係をゼロから追える。
歌が奇跡を起こす場面は、活字でもきちんと胸に来るよ。
橘ナナミ
合唱って、小説だと音が聞こえないじゃないですか。そこをどうやって成立させているのか、とても気になります。
佐藤メバル
そこは人が歌う理由や、歌う前の緊張、声が重なった瞬間の手応えで描いている。音そのものより、歌っている人間の変化を追う構成なんだ。
だから活字でも歌が聞こえてくるように感じる。部活ものが好きなら、素直に楽しめると思うよ。
さいとう市立さいとう高校野球部(上)
あさのあつこ 著|講談社
¥605(税込)
ロシア人の血を引く高校生・山田勇作が、美術教師で野球部監督の鈴木先生に勧誘され、お試し入部するところから始まる。独創的な練習方法に驚きの連続で、いつしかチームに愛着が湧いていく。こんな練習ありか、こんな野球部ありかと思わず笑ってしまうのに、気づけば泣いている。『バッテリー』の著者による、自由すぎる青春小説。
こんな人におすすめ
青春小説を笑いから入りたい人、部活ものの定番に飽きた人、あさのあつこの別の顔を読みたい読者。中高生にも大人にも。上巻から気軽に始められ、合わなければ途中でやめてもいい気楽さがある。
良い点
- 練習方法が独創的
- 笑いと涙の配分が絶妙
- 語り口が軽快
気になる点
- 上下巻構成
- 野球の細部は緩め
- ノリの好みが分かれる
出版社
講談社
発売日
2017年08月08日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
タイトルがもう、ちょっとふざけてますよね。あさのあつこさんって『バッテリー』の印象が強かったので、こんなに自由な話も書くんだと驚きました。
佐藤メバル
そこがいいんだよね。美術教師で監督の鈴ちゃんが、とにかく型にはまらない練習を次々に出す。似合わないユニフォーム姿で現れる先生を、勇作が半ば呆然と見ているうちにチームが動き出す。
笑いから入って、最後にぐっと来る。バッテリーとは別の野球部の形を見せてくれるよ。
橘ナナミ
上巻だけでも一区切りつく感じですか。それとも、下巻まで読む前提で組み立てられているんでしょうか。
佐藤メバル
上巻で春からの流れがしっかり描かれて、登場人物の関係も見えてくる。下巻を読むともっと広がるけれど、上巻だけでも十分に笑って泣ける。
まずは鈴ちゃんのペースに巻き込まれてみてほしい。合わなければ途中でやめてもいい、くらいの気軽さでいいと思う。
小説 ゆずのどうぶつカルテ(2) こちら わんニャンどうぶつ病院
伊藤みんご 著|講談社
¥748(税込)
母の入院で、しばらく「青空町わんニャンどうぶつ病院」で暮らすことになった小学五年生・森野柚。獣医の叔父のもとで獣医見習いとして過ごす日々の中で、盲導犬のルークと飼い主のひなこさんの関係に出会う。ところがルークを襲う痛ましい事件が起こり——。人と犬のパートナーシップを正面から描く、かわいくて泣ける短編集。
こんな人におすすめ
動物の物語で泣きたい人、小学生に本を渡したい大人、盲導犬や介助犬に関心がある読者。カバーも挿絵も描き下ろしなので手に取る楽しみがある。一話ずつ区切って読めるのも気軽でいい。
良い点
- 全漢字にふりがな
- 4編収録で読みやすい
- 挿絵が描き下ろし
気になる点
- シリーズ2作目
- 子ども向けの文体
- 事件の描写が痛い
出版社
講談社
発売日
2019年08月08日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これ、シリーズの2作目なんですよね。1作目を読んでいないと、途中で置いていかれたりしますか。
佐藤メバル
一話ずつ完結する形だから、ここから入っても大丈夫だよ。柚が獣医見習いとして過ごす中で、盲導犬のルークと飼い主のひなこさんに出会う。
パートナーという言葉の重さを、小学生の視点でまっすぐ見つめている。4つのストーリーが収録されていて、短いので読みやすい。
橘ナナミ
盲導犬を襲う事件というのは、けっこうつらい展開なんでしょうか。小学生が読んでも大丈夫な描かれ方ですか。
佐藤メバル
痛みはちゃんと書かれているけれど、置き去りにはしない。誰かが傷ついたとき、周りの人がどう動くかまで描かれているから、読後は温かい気持ちになる。
全漢字にふりがながついているので、初めての長い物語にもちょうどいいよ。
二日月
いとうみく 著|講談社
¥858(税込)
妹の誕生を待ち望んでいた小学生の杏が、障がいをもって生まれた妹・芽生を次第に受け入れていく過程を描く。周りに「かわいそう」と言われて怒りながら、自分こそが恥ずかしいと思っていたと気づく。揺れる心を正直に描いた点が力強い。文庫化にあたり、成人した杏を描く『月立つ』が書き下ろされ、姉妹のその後まで読める決定版。
こんな人におすすめ
家族と向き合う物語を読みたい人、きょうだいの立場から見た成長を追いたい人、読書感想文の題材を探している中高生に。書き下ろしで姉妹のその後まで読めるので、一度読んだ人にももう一度勧めたい。
良い点
- 妹の存在を正面から描く
- 書き下ろし『月立つ』収録
- 母の姿が凜としている
気になる点
- 題材が重い
- 児童書ゆえ字数は控えめ
- 感情の揺れが痛い
出版社
講談社
発売日
2026年07月15日
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「かわいそう」って言われて怒るのに、自分も恥ずかしいと思っていたと気づく。その辺り、読んでいて苦しくなりませんか。
佐藤メバル
苦しくなるよ。でも、そこから目を逸らさずに書いたのがこの作品の強さなんだ。妹を恥ずかしいと思った自分を認めるところが、受け入れのスタートになっている。
母が妹を正面から受け止める姿も、対になる柱として効いている。課題図書に選ばれたのも納得だよ。
橘ナナミ
文庫版だと、大人になった杏の話が書き下ろされているんですよね。そこまで読むと、最初の印象も変わりそうですね。
佐藤メバル
そこが決定版の意味だと思う。妹と過ごした時間が、その後の人生でどう効いてくるか。読み終えたあとに残るものが、児童書の枠を越えてくる。
文庫版には舞台化した脚本家・演出家の方の解説も収録されていて、その視点も面白い。誰かに勧めたくなる一冊だよ。
九年前の祈り
小野正嗣 著|講談社
¥726(税込)
三十五になったさなえが、幼い息子の希敏を連れて海辺の小さな集落に戻ってくるところから始まる。希敏の父はカナダ人で、希敏が一歳になる頃に姿を消した。手に負えない子どもと、その子を抱える母の日々が、九年前の「みっちゃん姉」の言葉を軸に重なっていく。芥川賞を受賞した、痛みと優しさに満ちた〈母と子〉の物語。
こんな人におすすめ
家族の痛みと再生を丁寧に読みたい人、短篇集で質の高いものを探している人、芥川賞作品を読んでみたい読者。子育ての実感から少し離れた場所にいる人にも届く。静かな読後感を好む人に向く。
良い点
- 芥川賞受賞作
- 表題作ほか短篇が読める
- 土地の描写が濃い
気になる点
- 重い題材
- 短篇ごとに温度差がある
- 子育て経験がないと遠い部分も
出版社
講談社
発売日
2017年12月15日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
子育ての話なんですよね。私、まだ子どもがいないので、当事者として読めるか不安なんですけど、それでも読む意味はありますか。
佐藤メバル
あるよ。というより、これは子育ての実用ではなくて、人の痛みをどう言葉にするかという小説なんだ。
さなえは息子を持て余しながら、九年前に「みっちゃん姉」がかけてくれた言葉を思い出す。その重なりだけで、人は時間を生きているんだとわかる。当事者かどうかは関係ないよ。
橘ナナミ
なるほど。九年前の言葉が今の彼女を支えている、という構造なんですね。ほかの作品はどんな雰囲気なんでしょう。
佐藤メバル
表題作のほかに、ウミガメの夜、お見舞い、悪の花と並んでいる。どれも小さな出来事から始まって、じわじわ人の内側に入ってくる。
派手な泣かせ方はしないけれど、読後に静かに残る。そういう泣き方がしたい日に開いてほしい本だよ。
みずから我が涙をぬぐいたまう日
大江健三郎 著|講談社
¥1,650(税込)
天皇に殉じて自死した作家の死に衝撃を受けた、同じ主題を共有するもう一人の作家が、〈天皇制〉という枷を想像力で打ち破ろうとした表題作。宇宙船基地から逃げ出す男が現人神による救済を夢見る「月の男」を併録する。まったく異なる二つの文体で、現代人の危機を深刻に、かつユーモラスに描いた中篇二篇を収める。
こんな人におすすめ
戦後文学の核心に触れたい人、大江健三郎をこれから読む人、文体そのものを味わいたい読者。中篇二篇なので、まとまった時間が取れるときに読むのが向く。読み比べを楽しみたい人にも。
良い点
- 文体の振れ幅が大きい
- 中篇2篇で濃い
- 戦後文学の入口になる
気になる点
- 難解な箇所がある
- 時代背景の知識が必要
- 読み手を選ぶ
出版社
講談社
発売日
1991年02月01日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
タイトルからして、すごく重そうですね。天皇制って言葉も出てきますし、私が読んで理解できるんでしょうか。
佐藤メバル
難しいことは確かだよ。でも、まず表題作は「同じ主題を共有するもう一人の作家」が、自死した作家の死を受けて書いたものなんだ。
想像力で枷を打ち破ろうとする、その挑み方そのものが読みどころ。二篇で文体が全然違うから、比較しながら読むと入りやすいよ。
橘ナナミ
二篇で文体がまるで違うというのは面白いですね。片方はユーモラスと書いてあって、そこも意外でした。
佐藤メバル
その落差がこの本の魅力なんだ。深刻な主題を、深刻な顔だけで書いていない。むしろ笑いの要素を混ぜることで、危機の輪郭がはっきりしてくる。
重い本を読むときこそ、こういう仕掛けがあると息ができる。時間をかけて読んでほしい。
原民喜戦後全小説
原民喜 著|講談社
¥2,420(税込)
広島への原爆投下の惨劇を克明に描いた「夏の花」三部作、亡妻への思いが滲む「美しき死の岸に」、国語の試験でも出題された「翳」を収録する。壮絶な体験と苦悩を刻んだ小説群が、戦後を経てなお鮮烈な光を放つ。戦争文学の金字塔を、文芸文庫のスタンダードとして新装した一冊。作家の軌跡そのものが見えてくる。
こんな人におすすめ
戦争と文学を学びたい人、原爆を扱った作品をきちんと読みたい人、教科書で名前を見た作品の全体像を知りたい読者に。一篇ずつ間を空けて読むのが向く。手元に置いて長く付き合いたい人にも。
良い点
- 主要作品をまとめて読める
- 新装版で手に取りやすい
- 童話作品も収録
気になる点
- 内容が非常に重い
- 連続で読むのは負担
- 時代の前提知識が要る
出版社
講談社
発売日
2015年06月11日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「夏の花」って名前は聞いたことがあります。原爆を描いた作品ですよね。正直、読むのをためらう重さがあるんですが、それでも読むべきなんでしょうか。
佐藤メバル
「読むべき」と押しつける気はないよ。ただ、これは体験を証言として残そうとした仕事なんだ。淡々とした文体だからこそ、かえって景色が消えない。
克明に描くことが祈りになっている。亡妻への思いを書いた作品や童話も収録されていて、作家の全体像が見える構成になっているよ。
橘ナナミ
童話も収録されているんですね。それは意外でした。重い作品の合間に読める感じなんでしょうか。それとも、最後に置かれているんでしょうか。
佐藤メバル
並びとしては拾遺作品や童話が後ろにまとまっている。だから最初から通して読むより、一篇ずつ間を空けて読むほうがいいと思う。
原爆の描写は一度にたくさん受け取れないからね。時間をかけて、必要なときに戻ってくる本だよ。
シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン
小路幸也 著|集英社
¥748(税込)
東京下町で老舗書店を営む堀田家の人々が、古本にまつわる事件を次々と解決していく人気シリーズの第二弾。ラブ&ピース、笑いと涙が同時にやってくるホームドラマの決定版で、家族の掛け合いの温度がとにかく高い。一話ずつ区切りよく読めるので、寝る前の一編にも向く。登場人物に会いに行く感覚で読めるシリーズ。
こんな人におすすめ
家族ものの温かさに浸りたい人、シリーズを長く楽しみたい人、重い話の合間に読む一冊を探している読者。下町の空気や古本の話題が好きな人にも。泣きにいくのではなく、生活の中の泣ける話を味わいたい人に。
良い点
- 家族の掛け合いが楽しい
- 一話ずつ読める
- 古本の話題が魅力的
気になる点
- シリーズ2作目
- 事件は穏やかめ
- 登場人物が多い
出版社
集英社
発売日
2009年04月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
家族小説のシリーズとのことですが、登場人物が多そうですよね。2作目から入るのはハードルが高いんでしょうか。
佐藤メバル
一話ずつ事件が解決する形だから、途中からでも大丈夫。堀田家は老舗書店を営んでいて、古本にまつわる謎と家族の掛け合いが同時に進む。
その掛け合いの温度が高くて、読んでいると自然に笑ってしまう。重い本の合間に挟むと、ちょうど息継ぎになるよ。
橘ナナミ
なるほど。泣ける本を続けて読むと疲れるので、こういう温かい本を間に挟むのもいいですね。シリーズで最初に読むなら、どこからでもいいんでしょうか。
佐藤メバル
どこからでも読めるけれど、最初の巻から行くと家族の関係がすっと入ってくる。この巻はとくにラブ&ピースの色が濃い。
泣かせにいくというより、泣ける出来事が生活の中に転がっている感じ。そういう泣き方をしたい人に向いているよ。
刑事のまなざし
薬丸岳 著|講談社
¥880(税込)
通り魔によって幼い娘を植物状態にされた夏目信人が、刑事の道を選ぶ。虐待された子、ホームレス殺人、非行犯罪。社会の歪みで苦しむ人々を、温かく、時に厳しく見つめながら真実を探り出す連作ミステリ。捜査はいつも苦しいという言葉が全篇を貫く。事件の解決より、その先の人の在り方に光を当てた薬丸岳の真骨頂。
こんな人におすすめ
ミステリで泣きたい人、連作短篇で読み進めたい人、社会派の刑事ものを探している読者。一話ずつ区切りたい人にも向く。涙の量は話によって違うので、篇ごとの手触りの差も楽しめる。
良い点
- 連作で読みやすい
- 事件の切り口が多彩
- 夏目の人物像が芯になる
気になる点
- 重い題材が多い
- 事件の救い方は一様でない
- 涙の量は話による
出版社
講談社
発売日
2012年06月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
刑事が主人公のミステリで泣けるって、ちょっと意外です。事件を解く話なのに、どうやって涙につながるんでしょう。
佐藤メバル
そこが薬丸岳の巧さなんだ。夏目は自分の娘を奪われた立場から刑事になった人で、捜査はいつも苦しいと語る。
事件を解いて終わりではなく、事件のあとに残る人の暮らしまで見てしまう。虐待やホームレス、非行といった題材を、温かさと厳しさの両方で扱っているんだ。
橘ナナミ
七つの話が入っているんですよね。気になる一篇だけ拾い読みする、みたいな入り方もできますか。それとも順番に読むべきでしょうか。
佐藤メバル
順番に読むと夏目の像が育っていくからおすすめだけど、一篇だけでも十分に効く。とくに「オムライス」の話は、題名からは想像できない重さがある。
まず一篇読んで、続きが気になったら戻ってくる、でいいと思うよ。
小説の神様
相沢沙呼 著|講談社
¥858(税込)
学生で作家デビューしたものの酷評され、売り上げも振るわない主人公が、物語を紡ぐ意味を見失うところから始まる。そこへ同い年の人気作家・小余綾詩凪が現れ、二人で小説を合作するうちに、彼女の秘密に気づいてしまう。いつか誰かが泣かないですむように書く——その言葉が芯にある、不器用な青春の物語。
こんな人におすすめ
創作に手を出したことがある人、書くことの意味を考えたい人、作家同士の関係を読みたい読者。映画から入って原作を確かめたい人にも。短い章で進むので、隙間時間にも読み進めやすい。
良い点
- 創作の内側が描かれる
- 合作という仕掛けが面白い
- 短い章で進みやすい
気になる点
- 作家の苦悩が重い場面も
- 恋愛要素は控えめ
- 読後感の好みが分かれる
出版社
講談社
発売日
2016年06月21日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
小説を書く話を小説で読むって、ちょっと入れ子みたいで面白いですね。私も研究で文章を書くので、けっこう刺さりそうです。
佐藤メバル
刺さると思うよ。主人公は学生でデビューしたのに酷評されて、物語を書く意味を見失っている。そこに同い年の人気作家が現れて合作が始まる。
書くことでしか前に進めない二人の姿が、とても正直に書かれている。創作をしたことがある人なら、痛いところを突かれるはずだよ。
橘ナナミ
合作っていうのは、二人の文章が混ざるわけですよね。そこから彼女の秘密が見えてくる流れが気になります。
佐藤メバル
そこが一番の読みどころだね。相手の書いたものを読むという行為は、相手の中身を見ることに近い。だから合作は、知らずに踏み込んでしまう行為でもある。
映画にもなった作品だけど、原作は創作の内側の描写がずっと細かいよ。
その一秒先を信じて アカの篇
秀島迅 著|講談社
¥880(税込)
難病に冒された弟の治療費を稼ぐため、ボクシングで勝つことを宿命づけられた少年・暁。勝利を重ねるほど心を孤独が苛み、天才ボクサーになった彼の前に、幼馴染の優しい少年・四六が現れる。強いって何だろうという問いを抱えたまま、二人はインターハイ決勝のリングで再会する。アカとシロ、どちらから読んでも楽しめる青春拳闘小説。
こんな人におすすめ
スポーツもので泣きたい人、兄弟や幼馴染の関係を読みたい人、二冊同時に読む楽しみを味わいたい読者。ボクシング未経験でも入れる熱量がある。同じ試合を別の側から読む体験をしたい人にも。
良い点
- アカとシロの対の構成
- 熱量が高い
- 問いが明快
気になる点
- ボクシングの描写が濃い
- 二冊揃えると厚い
- 展開は熱血王道
出版社
講談社
発売日
2020年03月19日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
アカの篇とシロの篇が同時に出ているんですね。これって、どちらから読むのが正解なんでしょうか。順番で印象が変わりそうです。
佐藤メバル
どちらからでも楽しめるように作られているのがこの本の面白さだよ。アカの篇は暁の側から、シロの篇は四六の側から、同じ試合の意味が変わって見える。
強いって何だろうという同じ問いを、二人が別の角度から抱えている。片方を読んでからもう片方を読むと、景色が反転するよ。
橘ナナミ
弟の治療費のために勝たなきゃいけないっていう設定が、もう切ないですね。勝つほど孤独になるって、どういうことなんだろう。
佐藤メバル
そこがこの話の重心なんだ。勝つことが目的になって、勝ったあとの自分が置き去りにされていく。その孤独に、幼馴染の四六がどう触れるか。
リングの上の再会は、ただの決勝戦じゃない。汗と涙の量がそのまま物語の熱になっているよ。
輝く夜
百田尚樹 著|講談社
¥693(税込)
クリスマスイブに、七年勤めた会社をリストラされた恵子。倒産の危機にある弟になけなしの貯金を渡してしまう。「平凡な幸せが欲しいだけなのに」と思いながらも、困っている人を放っておけない彼女が、一人の男性を助けようとする。最後に誰を想い、何を願うかを五編で描く、短くて深い連作。
こんな人におすすめ
短編で泣きたい人、クリスマスの時期に読む本を探している人、平凡な幸せを考えたい読者。五編それぞれが短く、一日一編の読み方もできる。著者の別の代表作から入ってきた人にも手に取りやすい。
良い点
- 5編で読みやすい
- 日常から奇蹟に入る構成
- 恵子の人物像が温かい
気になる点
- 一編ごとの好みは分かれる
- 奇蹟の描き方は淡い
- 冬以外だと空気が合いにくい
出版社
講談社
発売日
2010年11月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
『永遠の0』の人なんですね。あれは読んだことがあるんですけど、こっちは短編集なんですか。クリスマスイブの話から始まるって、季節ものみたいで気になります。
佐藤メバル
そう、五編の連作で、一編目がクリスマスイブの恵子の話なんだ。リストラされて、それでも困っている人を放っておけない。
平凡な幸せが欲しいだけなのにという呟きが、そのまま読者の言葉になる。奇蹟は派手じゃなくて、日常のすぐ隣で起きる。そういう泣かせ方だよ。
橘ナナミ
なるほど。クリスマスの時期じゃなくても読めますか。今は季節が違うんですけど、空気は合いますかね。
佐藤メバル
読めるよ。ただ、寒い時期に読むと、灯りや人の体温の描写がより近く感じられる。短いので一日一編ずつ読んでもいいし、まとめて読んで余韻に浸るのもいい。
困っている人を見過ごせない人に、そっと勧めたくなる本だね。
三軒茶屋星座館 1 冬のオリオン
柴崎竜人 著|講談社
¥902(税込)
都会の路地裏にあるプラネタリウム「三軒茶屋星座館」の店主・和真のもとへ、十年ぶりに弟の創馬が、小学生の娘・月子を連れて現れる。星座館で語られる超現代語訳のギリシャ神話が、人の絆をつくり、仲間を家族に変えていく。声をあげて笑い、本気で泣ける、心温まるエンターテインメント小説。
こんな人におすすめ
家族の再生を読みたい人、星や神話が好きな人、連作で少しずつ世界を広げたい読者。心温まるエンタメを探している人にも。星座ごとに章が進む構成なので、区切りをつけて読みたい人にも向く。
良い点
- 星座と神話の使い方が巧い
- 笑いと涙の両方
- 続刊で世界が広がる
気になる点
- シリーズ1作目
- 登場人物の関係が複雑
- 神話の知識があると尚可
出版社
講談社
発売日
2016年02月13日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
プラネタリウムが舞台って、静かな話なのかと思ったら「声をあげて笑い、本気で泣ける」と書いてあって、その振れ幅が気になります。
佐藤メバル
その振れ幅がこの本の魅力だよ。店主の和真のところに、十年ぶりに弟が小学生の娘を連れて転がり込んでくる。
そこで語られるのが、超現代語訳のギリシャ神話なんだ。神話が今の家族の話に重なるから、笑ったあとにふっと泣ける。星座ごとに章が進む構成もきれいだよ。
橘ナナミ
超現代語訳というのが気になります。古典の神話を今の言葉に置き換えているんでしょうか。そこが読みどころなんですか。
佐藤メバル
そこが読みどころのひとつだね。語り直された神話が、そのまま今を生きる人たちの関係に効いてくる。星座館に集まる人たちが、少しずつ仲間から家族になっていく過程が丁寧に描かれている。
冬のオリオンから始まる第一巻、入りやすいと思うよ。
銀河ホテルの居候 あのときの夕日を胸に
ほしおさなえ 著|集英社
¥858(税込)
銀河ホテルの「手紙室」が預かるのは、発送しない手紙。四十年ぶりにホテルを訪れた杉田は、創業者の孫・上原裕作と大学時代に文学を志した仲だった。親友の死を受け入れる場面と、女子ラグビーに明け暮れた三葉が進路に不安を抱える場面が重なっていく。伝えたかった想いと言葉が、静かに胸を打つ優しい物語。
こんな人におすすめ
言えなかった言葉を抱えている人、静かな感動を味わいたい人、人生の節目に読む一冊を探している読者。ラグビーや学生生活の記憶がある人にも。じっくり時間をかけて読みたい人に向く。
良い点
- 手紙という装置が効く
- 静かな余韻
- 複数の人生が重なる構成
気になる点
- 派手な展開はない
- 時間軸の切り替えが多い
- じっくり読む向き
出版社
集英社
発売日
2026年07月17日頃
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「発送しない手紙」って、送らないまま預かっておくってことですよね。それって、書いた人の気持ちが残り続ける場所みたいで、ちょっと切ないです。
佐藤メバル
まさにそこがこの本の核なんだ。宛先に届かない言葉が、ホテルの一室に預けられている。伝えたかった想いと言葉が、時を越えて誰かに届く瞬間がある。
四十年ぶりに訪れた杉田の話と、ラグビーを終えた三葉の話が重なる構成も、うまくできているよ。
橘ナナミ
タイトルの「居候」という言葉も気になります。誰が、どこに居候しているんでしょう。そこも物語の鍵なんですか。
佐藤メバル
そこは読んでのお楽しみだけど、居場所というテーマが全篇にあることは確かだね。ホテルという行き場のある場所に、それぞれの事情を抱えた人が寄ってくる。
読後は、誰かに短い手紙を書きたくなると思うよ。メールじゃなくて、手書きでね。
霧のむこうのふしぎな町
柏葉幸子 著|講談社
¥1,430(税込)
水玉もようのかさの案内で、リナが「霧の谷」にやってくる。そこで過ごすふしぎな夏休みを描いたファンタジーの傑作で、新装版として装いも新たになった。日常と違う世界に行くけれど、実は限られた不思議な空間——作家の島本理生もその魅力を語っている。長く読み継がれてきた物語を、初めて読む人にも読み返す人にも。
こんな人におすすめ
ファンタジーの名作を子どもと一緒に読みたい人、夏休みの読書に一冊探している人、少年少女の冒険物語に戻りたい大人。読み聞かせにも向く。誰かに渡す前提で手元に置いておきたい人にもいい。
良い点
- 新装版で手に取りやすい
- ふしぎな世界の描き込み
- 長く愛されてきた
気になる点
- 子ども向けの語り
- 大きな事件は少なめ
- 読了後の余韻は静か
出版社
講談社
発売日
2006年09月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
水玉もようのかさの案内って、入り口からしてもうふしぎですね。これ、児童書なんですよね。大人が読んでも面白いですか。
佐藤メバル
面白いよ。というより、霧の谷という限られた不思議な空間の作り方が絶品なんだ。日常と違う世界に行くのに、閉じた場所でもある。
だから冒険でありながら、どこか懐かしい。作家の島本理生さんがこの感覚を評しているのも、よくわかる。読み返すたびに印象が変わるよ。
橘ナナミ
なるほど、夏休みに読むのが合いそうですね。子どもに渡すとしたら、どのあたりから読めるものでしょうか。
佐藤メバル
物語を追える年齢なら十分楽しめると思う。一人で読んでも、読み聞かせてもいい。長く愛されてきた本だから、大人が子どもの頃に読んで、今度は誰かに渡す、という使い方もできるね。そういう循環が生まれる一冊だよ。
泣きどころは「物語の設計図」で決まる
橘ナナミ
泣ける本と泣けない本の違いって、構造で説明できるんですか?
佐藤メバル
かなり説明できる。まず伏線。『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』は帯に「すべての伏線が、愛」と掲げられていて、毎年記憶が戻ってしまうという設定そのものが回収装置になっている。
橘ナナミ
なるほど、謎が解ける瞬間に涙が来るんですね。
佐藤メバル
そう。『はじめましてを、もう一度。』も、夢のお告げから始まるラブ・ミステリーで、彼女が言えずに抱えていた秘密が明かされる位置が絶妙なんだ。次に視点。『九年前の祈り』は母と子のあいだで視線が揺れ、『刑事のまなざし』は連作の積み重ねで感情を少しずつ高める。そして余白。『星の王子さま』や『霧のむこうのふしぎな町』は、説明しない部分に読者が自分の記憶を流し込むから、泣きどころが人によって変わる。余白は泣きの受け皿なんだよ。
外れを引かないための注意点と、ネタバレの扱い
橘ナナミ
「泣かせに来てる」と冷めちゃう作品もありますよね。
佐藤メバル
それこそアンチパターンだね。不幸を積み上げるだけの泣かせ過剰、ご都合主義で解決する展開、読後に不快感だけが残る作品は避けていい。判断材料は「泣いた人の数」より「どんな泣き方をしたか」のレビュー。ただし口コミは偏るから、専門目線で補正して読むこと。
橘ナナミ
あらすじを調べすぎるのも怖いです。
佐藤メバル
そこも大切。結末に触れず、感情の山場の位置だけを知るのがいちばん安全。『金色夜叉』は原作が未完のままだけれど、漫画化で完結まで描かれている——どう読めば完結するかという情報は、ネタバレなしで共有できる。あと、大切な人を失った直後やメンタルが落ちている時期は、無理に号泣系を選ばないこと。安全に読める範囲で泣くのが大原則だよ。
読後の余韻と回復の整え方
橘ナナミ
泣いた後、しばらく引きずっちゃうタイプです……。
佐藤メバル
それなら回復読書をセットにしよう。重い一冊のあとに、短い連作や笑える青春ものを挟む。『さいとう市立さいとう高校野球部』のように笑いの要素がある作品は回復に向く。感想を誰かに話す、心に残った一節を書き留める、時間を置いて再読する——再読で泣きどころが変わる作品は、長く付き合えるいい小説だよ。紙で読んで泣き、音声で聞き直して別の箇所で泣く、という楽しみ方もある。
よくある質問
泣ける小説ランキングで、本当に泣けるのはどれですか?
橘ナナミ
泣ける小説ランキングで、本当に泣けるのはどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
断言はできません。泣けるかどうかは読む人の今の状態で変わるからです。まず涙の質で選ぶのが確実で、声を上げて泣きたいなら『輝く夜』や『この空の彼方にいるきみへ、永遠の恋を捧ぐ。』、じんわり沁みたいなら『星の王子さま』や『霧のむこうのふしぎな町』が向いています。
泣けない人でも泣ける小説はありますか?
橘ナナミ
泣けない人でも泣ける小説はありますかについて教えてください。
佐藤メバル
あります。感受性が低いのではなく、涙腺のツボが違うだけです。大きな悲劇より日常の小さな落差に反応するタイプなら、『その10文字を、僕は忘れない』のように、静かな関係の変化を丁寧に描く作品から試してみてください。
短時間で泣ける短編小説はどれですか?
橘ナナミ
短時間で泣ける短編小説はどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
『刑事のまなざし』は1話完結の連作ミステリ、『輝く夜』は5編の短編集、『九年前の祈り』も表題作ほか四作を収録しています。1話10〜30分で区切れるので、すきま時間に少しずつ泣きどころへ近づけます。
電車やカフェで読んでも泣かない方法はありますか?
橘ナナミ
電車やカフェで読んでも泣かない方法はありますかについて教えてください。
佐藤メバル
完全に避けるのは難しいですが、先に泣きどころの位置だけ把握しておく、短編を1話ずつ読む、電子書籍や音声で読むといった工夫で切り替えやすくなります。紙は涙の乾きが遅いので、外なら電子が無難です。
泣けるミステリー小説のおすすめは?
橘ナナミ
泣けるミステリー小説のおすすめはについて教えてください。
佐藤メバル
『はじめましてを、もう一度。』は夢のお告げから始まるラブ・ミステリー、『毎年、記憶を失う彼女の救いかた』はメフィスト賞を受賞した伏線型の作品です。連作ミステリなら『刑事のまなざし』が、事件の裏側にある痛みを丁寧に描いています。
恋愛小説で号泣できる作品はどれですか?
橘ナナミ
恋愛小説で号泣できる作品はどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
『その10文字を、僕は忘れない』は一日に10文字しか話せない少女との関係を描いた青春ラブストーリー、『この空の彼方にいるきみへ、永遠の恋を捧ぐ。』は病を抱える相手との時間を描きます。『ノルウェイの森』は作者自身が「100パーセントの恋愛小説」と記した作品です。
家族愛で泣ける小説を教えてください。
橘ナナミ
家族愛で泣ける小説を教えてください。について教えてください。
佐藤メバル
『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』は下町の書店を営む家族の物語、『三軒茶屋星座館 冬のオリオン』は叔父と姪が仲間を家族に変えていく物語です。愛に飢えながら育つ少年を描く『次郎物語』、障がいをもつ妹を姉が受け止めていく『二日月』も候補になります。
中学生・50代など、年代別のおすすめは?
橘ナナミ
中学生・50代など、年代別のおすすめはについて教えてください。
佐藤メバル
中高生なら『星の王子さま』『二日月』『小説 ゆずのどうぶつカルテ』のように読みやすさと感情の入口が整った作品を。50代なら『金色夜叉』『次郎物語』『涙雨の刻』など、時間の厚みを感じられる作品が向きます。立場が変われば同じ本が別の本になります。
まとめ
橘ナナミ
今日の話、けっこう目から鱗でした。順位を追うより、自分の状態を知るほうが先なんですね。
佐藤メバル
そう。ランキングは入口でしかない。泣きたい理由と、今の自分の余力が分かれば、どの一冊が自分に効くかは自然に見えてくる。
橘ナナミ
私、まずは短編でひとつ泣いてみます。『刑事のまなざし』か『輝く夜』あたりから。
佐藤メバル
いい選び方だ。で、泣けたらその涙を否定しないでほしい。泣けなかったら、その本が今の自分には必要なかっただけ。本は人を選ぶんだよ。
橘ナナミ
なんだか、それも優しいですね。
佐藤メバル
小説の涙は、蛇口をひねって出す水じゃない。地下に長い時間をかけて染みこんだ雨水が、ある日ひとつの亀裂からにじむ——そんなものだと思う。だから今日は、自分の地面がどのあたりで湿っているかを確かめるつもりで、一冊選んでみて。
