江戸時代の子育てが学べる本のおすすめ人気ランキング10選【2026年版】
監修

佐藤メバル
@shelfy_mebaru
編集長。あらゆるジャンルの本を年間数百冊読み込む本のプロ。投資・経営から小説・実用書・絵本まで、良書と読者の相性を見抜く。

橘ナナミ
@medias_nanami
編集部の新人インターン。22歳の大学院生で、メディア論を研究中。「それ気になります!」が口癖の天然キャラ。読者の素朴な疑問を代弁する役割で、各メディアの専門家にいろんなジャンルの素朴な質問をぶつけていく。
最終更新: 2026年10月
橘ナナミ
佐藤さん、今月のテーマが「江戸時代の子育て本」って聞いて、正直ちょっと身構えちゃいました。江戸=着物と浮世絵のイメージで、子育ての本があるなんて想像もつかなくて。
佐藤メバル
いい質問だね。そこが入口だよ。江戸時代は、現代以上に教育論が好きな時代だったと言われる。書店員だった頃、郷土史の棚で復刻版の育児書を見つけて、こんなに真剣に子育てを言葉にしていたのかと驚いたのを覚えているよ。
橘ナナミ
そんなに昔から育児書って出てたんですか。今の育児書ブームと変わらない?
佐藤メバル
熱量は近いね。ただ江戸の育児書は、母親向けのハウツーというより「家をどう継ぐか」が土台にある。現代の育児書と同じ気持ちで開くと、少しズレる。そのズレが、いちばん面白いところなんだ。
橘ナナミ
なるほど……。でもいきなり原文はハードルが高そうです。どこから入ればいいんでしょう。
佐藤メバル
そこで、選び方を整理しておこう。同じ「江戸の子育て本」でも、楽しみ方がまるで違うからね。
江戸時代の子育てが学べる本の選び方
目的別:入門・教養で楽しむ/研究・史料として使う/現代育児に応用する
橘ナナミ
まず目的別でいうと、入門はやっぱり新書からですか。
佐藤メバル
入門なら小泉吉永さんの『「江戸の子育て」読本』(小学館)が読みやすい。寺子屋で読み書きそろばんを習うこと、家庭でのしつけ、藩校や私塾まで、教育の「場」ごとに整理されていて、江戸の教育を一枚の地図として眺められる。中江和恵さんの『江戸の子育て』(文春新書)は、なぜ日本人は教育論が好きなのか、という問いから江戸の教育論ブームを考えていく本で、メディアを研究している橘さんに向いているかも。
橘ナナミ
それは気になります! 暮らしのリアルを知りたいときは?
佐藤メバル
中江克己さんの『江戸の躾と子育て』(祥伝社新書)だね。地域ぐるみで祝った誕生、胎教、捨て子や子おろし、絵双六、寺子屋の入門年齢まで、明るい面と厳しい面の両方を並べて見せてくれる。研究に使うなら太田素子さんの『江戸の親子』(中公新書)、さらに深く行くなら小泉さんの『心教を以って尚為す』(敬文舎)。後者は巻末の育児書一覧と索引が使いやすい。
レベル別:現代語訳のみ/原文+訳注/影印・翻刻中心
橘ナナミ
「現代語訳で読めるか」って、選ぶときにすごく大事ですよね。
佐藤メバル
大事。三層に分けて考えるといい。現代語訳として読み物で読む層/原文と訳注で語を確かめる層/影印・翻刻で史料として当たる層だね。新書や入門書は一層目、東洋文庫『子育ての書』のような史料集は二層目、復刻版や『近世育児書集成』のような集成は三層目になる。
橘ナナミ
二層目って、注がないと読めないものなんですか。
佐藤メバル
江戸の育児書は漢文訓読のものも多いからね。貝原益軒の『和俗童子訓』や中江藤樹の『鑑草』も、注や解説つきで当たるほうが誤読が少ない。
形式別:新書・文庫/学術単行本/史料集・全集/復刻版
佐藤メバル
形式で選ぶなら、新書は移動中に読める導入、学術単行本は注と索引つき、史料集・全集は手元に置く辞書のような扱い、復刻版は原本の字組や挿絵まで見たい人向けだね。
橘ナナミ
挿絵まで見たい、は分かります。絵があると江戸が急に近くなります。
入手性・価格帯別:書店で買える現行流通/絶版は古書・図書館
佐藤メバル
価格帯でいうと、新書・文庫は1000円前後から、単行本は2000〜3000円台、巻末資料つきの大型本は4000円台以上、全集や復刻版はさらに上、と覚えておけばいい。
橘ナナミ
絶版になっている本は、どう探せば?
佐藤メバル
古書店と図書館、この二本立て。今野信雄さんの『江戸子育て事情』のように、書店で見かけにくい本もある。図書館の郷土資料と教育史の棚は宝の山だよ。
テーマ別:育児書そのもの/育児の実態・生活史/子ども観・教育思想
橘ナナミ
育児書そのものを読むのと、実際の暮らしを読むのは、やっぱり別なんですね。
佐藤メバル
別ものだね。育児書は「こう育てよ」という規範、生活史は「実際どうだったか」。渡辺信一郎さんの『江戸の寺子屋と子供たち』は古川柳を入口に庶民の教育事情を掘る一冊だし、『寺子屋の「なるほど!!」』や『寺子屋 伝統文化・礼儀作法』は、寺子屋で何を学んだのかを具体的に知りたいときに向く。
橘ナナミ
規範と実際を両方読むと、像が立体的になりそうですね。
江戸時代の子育てが学べる本をひと目で比較
橘ナナミ
えっ、10冊もあるんですか!?まずどう見ればいいんですか?
佐藤メバル
焦らず焦らず(笑)。まずはこの一覧で全体像を眺めてみよう。価格・著者・対象読者をまとめて見られるから、自分に近そうなのが分かるはず
江戸時代の子育てが学べる本のおすすめ人気ランキング
橘ナナミ
一覧だけだとピンと来ないので...1冊ずつ詳しく教えてください!
佐藤メバル
よし、それじゃあ1位から順に1冊ずつ解説していこう。各冊どんな人に向いてるかも合わせて話すから、自分に合いそうなのを見つけてほしい

「江戸の子育て」読本 (江戸文化歴史検定公式テキスト)
小泉吉永 著|小学館
¥2,928(税込)
江戸時代、子どもを産み育てることは「家」を存続させるための重大事で、武士には武士の、商家には商家の、庶民には庶民の育て方がありました。この本は、寺子屋で読み書きそろばんを習うこと、家庭のしつけ、社会による道徳教育、藩校や私塾での教育まで、子どもが育つ「場」ごとに整理して見せてくれます。江戸文化歴史検定の公式テキストとして作られているので、用語や制度の押さえが堅い。幕末に来日した外国人が驚愕したという子育ての真髄に触れられる、全体像をつかむ最初の一冊です。
こんな人におすすめ
江戸の教育制度をまず全体像で押さえたい人、時代小説やドラマの背景を知りたい人、学校や家庭での「教える場」の役割を考えたい人。検定テキストだけに用語が正確なので、引用やレポートの下調べにも向きます。
良い点
- 武士・商家・庶民の違いを比較できる
- 寺子屋から藩校・私塾まで射程が広い
- 検定テキストで用語の押さえが堅い
気になる点
- 価格帯はやや高め
- 全体像重視で個別事例は少なめ
- 読み物というより教材寄りの作り
出版社
小学館
発売日
2007年12月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
江戸時代の子育てを本で調べようとすると、どこから入ればいいんでしょう。いまの育児書みたいに「まずこれ」という一冊がある感じがしなくて。
佐藤メバル
いい質問だね。だからこそ、最初に棚の地図が要る。この『「江戸の子育て」読本』は江戸文化歴史検定の公式テキストとして作られていて、武士・商家・庶民それぞれの育て方、寺子屋・藩校・私塾、家庭のしつけ、社会の道徳教育と、「場」ごとに整理してくれている。
幕末に来日した外国人が驚いたという話まで含めて、全体像をまず押さえるのに向いているよ。
橘ナナミ
なるほど、地図の一冊目なんですね。じゃあこれは、読み物として楽しむというより、学ぶ感じの本ですか?
佐藤メバル
そう、教材寄りだと思って開くといい。物語のように読ませる本ではないけれど、用語と制度の押さえは堅い。
ここで枠組みを作ってから、次の新書で「なぜ日本人は教育論が好きなのか」を考えたり、川柳から庶民の実感に入ったりすると、頭のなかがつながっていくよ。

江戸の子育て (文春新書 315)
中江和恵 著|文藝春秋
お受験、不登校、英会話——果てしなく続く現代日本の教育論議を並べたうえで、「なぜ日本人は教育論が好きなのか」を江戸の教育論ブームを通して考えていく新書です。江戸の子育ての実践マニュアルではなく、教育がどう語られ、消費されてきたかという言説そのものに目を向ける一冊。書店の子育て本の棚では珍しい「なぜ」の本で、制度史の本を読んだあとに置くと、視点が一段上がります。
こんな人におすすめ
教育論の多さに少し疲れている人、メディアや言説の分析に関心がある学生・大学院生、書店の子育てコーナーを眺めてモヤッとしたことがある人。ハウツーを求める用途には向かないぶん、読み物として、あるいはレポートの切り口探しとして効きます。
良い点
- 現代の教育論議から入れる
- 新書で読みやすく短時間で読める
- 教育言説を相対化できる
気になる点
- 具体的な育児ノウハウは少ない
- 江戸の制度史の整理は薄め
- 実用書を期待すると肩透かし
出版社
文藝春秋
発売日
2003年4月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これ、タイトルは「江戸の子育て」なのに、内容紹介に「お受験、不登校、英会話」って出てくるんですよ。江戸の話なのに現代?って思ったんですが。
佐藤メバル
そこがこの本の面白さでね。これは育児のハウツーではなく、なぜ日本人は教育論が好きなのかを、江戸の教育論ブームを通して考える本なんだ。
お受験や英会話といった現代の論議を並べたうえで、その熱の源を江戸に遡って見ていく。だから読後感は、育児書というより批評の本に近いよ。
橘ナナミ
あ、それ私けっこう刺さります。メディア論をやっているので、教育がどう語られてきたかという見方に近い気がします。
佐藤メバル
そうだと思う。書店の子育て本の棚って、実は「何をすべきか」の本がほとんどでしょう。その中でこの新書は、「なぜみんな語りたくなるのか」を問うている。
実際のしつけの中身を知りたい人には物足りないかもしれないけれど、視点を一段上げたい人にはよく効くよ。

江戸の躾と子育て (祥伝社新書 68)
中江克己 著|祥伝社
誕生を地域ぐるみで祝ったこと、長屋の隣近所が世話を焼いたこと、季節ごとの遊びや絵双六、寺子屋の入門年齢、独自な女子教育、武家の子が学んだ文武両道——話題がとにかく具体的です。江戸初期の儒学者・中江藤樹が女性向けの教訓書『鑑草』で「子育ては胎教からはじまる」と説いた話も収録。「捨て子と子おろし」まで項目に置く姿勢が誠実で、温かさと厳しさの両方から江戸の子育てが見えてきます。
こんな人におすすめ
江戸の暮らしをエピソード単位で知りたい人、地域で子育てに関わる人、絵双六や年中行事といった民俗的な話題が好きな人。新書なので移動の合間に読み進めやすく、明るい江戸像に少し疑問を持つ人の確認にも向きます。
良い点
- 話題が具体的で数が多い
- 明るさと厳しさの両面を扱う
- 新書で手に取りやすい
気になる点
- 論の体系性はやや薄め
- 出典の細かい検証は控えめ
- 現代の育児への直接の答えは少ない
出版社
祥伝社
発売日
2007年5月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
こちらの『江戸の躾と子育て』は、目次を見るだけで情報量が多いですね。胎教、絵双六、女子教育……とにかく話題が細かい。
佐藤メバル
そう、話題がとにかく具体的なんだ。誕生を地域ぐるみで祝ったこと、長屋の隣近所が世話を焼いたこと、季節ごとの遊びや絵双六、寺子屋の入門年齢、武家の子が学んだ文武両道まで並んでいる。
江戸初期の儒学者・中江藤樹が女性向けの教訓書『鑑草』で「子育ては胎教からはじまる」と書いた話も出てくるよ。
橘ナナミ
へえ、胎教ってもっと最近の話かと思っていました。でも、いい話ばかりでもなさそうですよね。「捨て子と子おろし」という項目もあって、少しドキッとしました。
佐藤メバル
よく気づいたね。明るい江戸像だけを並べる本ではないところが、この本の誠実さだと思う。
地域で祝い、厳しくしつけ、同時に捨て子や子おろしという厳しい現実もあった。その両方を置いてくれるので、江戸の子育てをきれいごとで終わらせずに読めるんだ。

江戸子育て事情
今野信雄 著|河出興産
書名に「事情」とあるとおり、制度や教育論ではなく、江戸の暮らしのなかで子育てがどう営まれていたかという日常の側面に光を当てる一冊です。寺子屋や藩校の制度から入る本と並べると、ちょうど補助線になり、「教育」という言葉からこぼれ落ちる生活の実感を拾えます。まとまった分量で通読しやすく、武士中心の入門書のあとに挟むと、江戸の子育てが急に体温を持ちはじめます。
こんな人におすすめ
武士や藩校の話だけでは物足りない人、江戸の日常や生活史に関心がある人、暮らし目線で子育てを捉え直したい人。制度史の本の「次の一冊」として、あるいは日々の記録を読む前の肩慣らしとして手に取ると、視野が広がります。
良い点
- 暮らし目線で読める
- 分量が手頃で通読しやすい
- 制度史の補助線になる
気になる点
- 内容の細部は目次で確認を
- 教育論の整理は薄め
- 扱う時代や地域は現物で確認したい
出版社
河出興産
発売日
1988年9月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
この『江戸子育て事情』は、ほかの本と違って内容紹介が見当たらないんですね。タイトルから何がわかりますか?
佐藤メバル
正直に言うと、僕の手元にも内容紹介が届いていなくてね。だから断定はしない。ただ、書名の「事情」という言葉は示唆的で、制度や教育論ではなく、暮らしのなかで子育てがどう営まれていたかという日常の側面に光を当てる切り口だと考えられる。ページ数も通読しやすい範囲だね。
橘ナナミ
じゃあ「事情」側から入る一冊、という位置づけで紹介するのはどうでしょう。武士や藩校の話が中心の本と並べると、補助線になりそうです。
佐藤メバル
いい落としどころだね。寺子屋や藩校の制度から入ると、どうしても「教育」の話になりがちで、日々の世話の実感が抜け落ちる。
暮らしの側から書かれた本を一冊挟むと、江戸の子育てが急に身近になる。まずは目次を開いて、扱っている時代や地域を確かめてみるといいよ。

江戸の親子: 父親が子どもを育てた時代 (中公新書 1188)
太田素子 著|中央公論新社
副題は「父親が子どもを育てた時代」。現代では育児の主体は母親とされがちですが、この本は父子の関係に照準を定めます。子育て本の多くが母親と地域のネットワークに焦点を当てるなか、父親の関わりから江戸の家族を描く点が際立っています。中公新書として腰を据えて読める厚みがあり、家族史としても、いまの育児参加を考える材料としても読める一冊です。
こんな人におすすめ
父親の育児参加を考えている人、男性の育休や父子関係に関心がある人、家族史やジェンダー史を学ぶ学生。江戸と現代を往復しながら読むと、答え合わせではなく考える材料として使える一冊です。
良い点
- 父子という切り口が明確
- 新書で厚みがある
- 家族史としても読める
気になる点
- 母親側の視点は他書で補う
- 制度全体の解説は薄め
- 答えより問いを渡す本
出版社
中央公論新社
発売日
1994年5月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「父親が子どもを育てた時代」——この副題にびっくりしました。江戸の子育てって、お母さんが中心のイメージだったので。
佐藤メバル
そこに照準を合わせたのがこの中公新書なんだ。子育て本の多くは、母親と地域のネットワークに焦点を当てる。
それに対してこの本は、父子の関係に切り込む。江戸では父親が子に関わっていたという視点を掲げている点が、同じ江戸ものでも際立っているよ。
橘ナナミ
いま男性の育休とか、父親の関わり方ってすごく話題ですよね。江戸の話として読むより、いまの自分の周りと重ねて読むほうが面白そう。
佐藤メバル
そう読むのがいいと思う。新書として腰を据えて読める厚みがあるから、現代の育児と比べながらゆっくり進められる。
江戸の父親像がそのまま答えになるわけではないけれど、考える材料にはなる。家族史として読むのもおすすめだよ。

江戸の子育て十カ条: 善悪は四歳から教えなさい
小泉吉永 著|柏書房
副題は「善悪は四歳から教えなさい」。江戸の子育てを「十カ条」という項目立てで整理し、しつけの勘所を具体的に示します。同じ小泉吉永さんの手による『「江戸の子育て」読本』が制度や場の全体像だとすれば、こちらは日常のしつけに寄せた実践編。小ぶりな造本で、一条ずつ区切られているので拾い読みもしやすく、自分の家のやり方と突き合わせながら読めます。
こんな人におすすめ
しつけの基準を具体的に知りたい親、江戸の教えを現代の家庭に置き換えて考えたい人、短い単位で少しずつ読み進めたい人。全体像の入門書とセットで、理論と実践を行き来する読み方が向いています。
良い点
- 条文ごとに拾い読みできる
- 副題が明快で目的がぶれない
- 短時間で読み切れる分量
気になる点
- 現代への置き換えは読者次第
- 制度史の全体像は別書で補う
- 短さゆえ物足りない人もいる
出版社
柏書房
発売日
2007年10月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
「善悪は四歳から教えなさい」という副題、けっこう強い言葉ですね。江戸の子育てって、そんなに早くから善悪を教えていたんでしょうか。
佐藤メバル
この本は、江戸の子育てを「十カ条」という項目立てで整理して、しつけの勘所を具体的に見せてくれる。条文ごとに区切られているから拾い読みもしやすい。
同じ小泉吉永さんの手による『「江戸の子育て」読本』が制度や場の全体像だとすれば、こちらは日常のしつけに寄せた実践編だね。
橘ナナミ
なるほど、セットで並べたくなります。ただ「四歳から」と言い切られると、いまの感覚だとちょっと身構えてしまうかも。
佐藤メバル
そこは素直に感じていいところだよ。江戸の教えをそのまま現代に当てはめるのではなく、どう置き換えるかは読む側の仕事になる。
だからこそ短い条文で区切ってあるのは助かる。気になる一条から読んで、自分の家のやり方と突き合わせてみるのがいい。

江戸の寺子屋と子供たち: 古川柳にみる庶民の教育事情
渡辺信一郎 著|三樹書房
副題は「古川柳にみる庶民の教育事情」。寺子屋の研究は入門年齢や教科書、生徒数といった制度の話になりがちですが、この本は当時の庶民が詠んだ川柳を手がかりにします。師匠と子どもの掛け合いや手習いの帰り道——数字では見えない当時の空気が立ち上がってくる。厚みのある一冊なので、史料の解説と川柳の機微を両方じっくり味わえる、切り口のユニークな本です。
こんな人におすすめ
落語や川柳など江戸の言葉が好きな人、統計ではなく実感から当時の教育を知りたい人、寺子屋をもう一段深く掘りたい人。笑いのなかの本音を読むつもりで開くと、当時の親や子どもの姿がぐっと近く感じられます。
良い点
- 川柳という独自の切り口
- 厚みがあり読み応えがある
- 庶民の実感に迫れる
気になる点
- 制度の整理は別書で補う
- 厚いので覚悟がいる
- 川柳の言葉は注を確認しながら
出版社
三樹書房
発売日
2008年9月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
副題が「古川柳にみる庶民の教育事情」……川柳から寺子屋を見るって、どういうことなんでしょう?
佐藤メバル
寺子屋の研究というと、入門年齢や教科書、生徒数といった制度の話になりがちだよね。この本は、当時の庶民が詠んだ川柳を手がかりにする。
師匠と子どもの掛け合い、手習いの帰り道——そういう実感の側から教育事情に迫る作りなんだ。厚みがあるぶん、史料の解説と川柳の機微の両方を味わえる。
橘ナナミ
川柳って、笑いのなかに本音がにじむじゃないですか。統計より、よっぽど当時の空気が残っていそうです。
佐藤メバル
まさにそこ。数字では見えない「親はどこまで熱心だったのか」「子どもはどう感じていたのか」が立体的に見えてくる。
同じ寺子屋を扱う本でも切り口がまったく違うから、教材を紹介する本や体験型の本と並べて読むと、寺子屋が点ではなく面で見えてくるよ。

寺子屋の「なるほど!!」
江戸教育事情研究会 著|ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
¥2,005(税込)
タイトルに「なるほど!!」と感嘆符がつくタイプの一冊で、寺子屋の意外な実態に驚きながら入っていく作りだろうとうかがえます。手頃な分量で、研究書として構えるより読み物として気軽に開ける。最初の一冊は正しさより面白さで選んでいい——ここで興味を持ってから、史料を読む本や制度の本に進むと頭に残ります。出版元が音楽系の会社というのも、少し意外で面白いところです。
こんな人におすすめ
寺子屋という言葉は知っているけれど何をしていたのかは知らない人、江戸の教育にまず親しみたい小中学生やその保護者、堅い本の前に肩慣らしをしたい人。最初の入門として気軽に開けます。
良い点
- タイトルからして入りやすい
- 手頃な分量で読みやすい
- 入門の一冊目に向く
気になる点
- 細部は目次で確認したい
- 研究書としては軽め
- 典拠は現物で確かめたい
出版社
ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス
発売日
2004年9月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
『寺子屋の「なるほど!!」』、この題名と感嘆符、いいですね。読む前から「へえ」と言わされそうな気がします。
佐藤メバル
そうだね。ただ、これも内容紹介が届いていなくて、僕はタイトルと判型以上のことは言えない。言えるのは、手頃な分量で、研究書として読ませるというより、寺子屋の意外な実態に「なるほど」と驚きながら入っていく作りだろうということ。
出版元が音楽系の会社というのも、少し意外で面白いところだね。
橘ナナミ
あ、たしかに。じゃあ入門の一冊目として置くのがよさそうです。先にこの本で驚いてから、川柳の本や史料の本に行く、みたいな順路。
佐藤メバル
その順路はいいね。最初の一冊は、正しさより面白さで選んでいい。ここで寺子屋に興味を持ってから制度の細かい話に入るほうが、頭に残るよ。
中身の細かい点は、実際に手に取って目次で確かめてみてほしい。

心教を以って尚為すー江戸に学ぶ「人間教育」の知恵
小泉吉永 著|敬文舎
¥4,950(税込)
江戸時代の育児書100余点が伝える子育て・人づくりの知恵をたどる一冊です。貝原益軒、佐藤一斎ほか江戸の思想家の育児論・教育論を取り上げ、やさしく解説してくれます。巻末には江戸時代育児書一覧、人名・書名・事項索引まで備わっているので、知りたいテーマから引けるのが大きな強み。厚みはありますが、通読するより辞書的に使うほうが力を発揮します。
こんな人におすすめ
江戸の育児書をテーマ別に引きたい人、教育思想史を学ぶ学生・研究者、学校や家庭で「人づくり」を考えたい人。索引から逆引きできるので、レポートや調べものの座右の一冊としても頼りになります。
良い点
- 育児書100余点を横断できる
- 索引と一覧が充実している
- 思想家の言説をやさしく解説
気になる点
- 価格帯は高め
- 厚くて気軽さはない
- 入口には入門書が先
出版社
敬文舎
発売日
2020年7月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
『心教を以って尚為す』——タイトルからして硬いですね。江戸時代の育児書100余点って、そんなに残っているんですか。
佐藤メバル
そう、100余点の育児書から、子育てと人づくりの知恵をたどる本なんだ。貝原益軒や佐藤一斎など、江戸の思想家たちの育児論・教育論を取り上げて、やさしく解説してくれる。
巻末に育児書一覧、人名・書名・事項索引が付いているのが大きくて、知りたいテーマから引ける。通読するより辞書的に使うほうが向いているかもしれないね。
橘ナナミ
索引があると、レポートを書くときにも助かります。小泉吉永さんの本は三冊目ですけど、これは一番「資料」寄りなんですね。
佐藤メバル
そう。入門書や十カ条が入口だとすれば、これは奥に構える一冊だね。価格帯は高めだから、まず図書館で確かめてから手元に置くか決めるのもいい。
思想家の名前だけ知っていた人が、実際に何を書いていたのかを確かめるには頼りになるよ。

寺子屋 伝統文化・礼儀作法
小中一貫校「志明館」開校準備会 著|good.book
開校準備中の小中一貫校「志明館」の独自科目「寺子屋」の教材として編集された一冊で、「素読暗唱」「偉人伝」とあわせて三部作をなします。内容は伝統文化と礼儀作法——祝日、十二支、しきたり、遊び、行事、伝統芸能、和装、挨拶、食事のマナー、敬語、和室と洋室の過ごし方、メールや年賀状まで。江戸を「知る」のではなく、江戸に学んだ作法を「いま使う」本という点で、並ぶ他の本とは性格がはっきり違います。
こんな人におすすめ
家庭や教室で礼儀作法を教えたい人、伝統文化を子どもと一緒に学びたい人、教材として使いたい教育関係者。暮らしの作法まで含めて「寺子屋」を捉えたいときに、ちょうどいい一冊です。
良い点
- 目次が実践的で使いやすい
- 伝統文化と作法を一冊で
- 学校教材として編集されている
気になる点
- 電子書籍は端末を選ぶ
- 文字拡大や検索など一部機能が使えない
- 江戸史の解説が主目的ではない
出版社
good.book
発売日
2019年9月
ページ数
詳細情報なし
橘ナナミ
これだけ毛色が違いますね。小中一貫校の「寺子屋」という科目の教材で、しかも三部作のひとつなんですって。
佐藤メバル
そう、伝統文化と礼儀作法の巻で、目次には祝日、十二支、しきたり、伝統芸能、和装、挨拶、食事のマナー、敬語、和室と洋室の過ごし方、メールや年賀状まで並んでいる。
江戸を「知る」本ではなく、江戸に学んだ作法を「いま使う」本という点で、並んでいる他の本とは性格がはっきり違うんだ。
橘ナナミ
それ、学校や家庭で使う想定ですよね。うちの近所でも、子どもに箸の持ち方や挨拶をどう教えるか、みたいな話をよく聞きます。
佐藤メバル
うん、まさにその場面の本だね。ただし電子書籍で、大きい画面の端末向けと注記されていて、文字の拡大やハイライト、検索など一部の機能が使えない。
そこは買う前に確認してほしい。江戸の歴史を解説する本ではないけれど、暮らしの作法まで含めて「寺子屋」を捉えたい人には、ちょうどいい一冊だよ。
江戸が育児書ブームだった背景と、「家」の論理
橘ナナミ
そもそも、なぜ江戸で育児書がこんなに増えたんでしょう。
佐藤メバル
子どもを産み育てることが「家」を存続させる重大事だったからだね。武士には武士の、商家には商家の、庶民には庶民の育て方があり、寺子屋や藩校、私塾、家庭のしつけまで、場ごとに役割が分かれていた。そこに出版文化が育ったことで、考え方が本という形で流通しはじめた。
橘ナナミ
で、育児書を読むのは母親ではなく父親だった、と。
佐藤メバル
そう。跡取りをどう育てるかは家の当主の問題で、育児書は男性向けの実務書として読まれた側面が強い。今でいうイクメン議論と重なるようで、実は少し違う。近代の「育児は母の役割」という見方のほうが、むしろ後から強くなったんだ。明治以降、産業化とともに母親中心の子育て観が前面に出てくる。
橘ナナミ
順番が逆だったんですね……。
育児書の理想と、実際の子育てのズレ
佐藤メバル
ここが一番面白いところ。江戸の育児書には、体罰を戒める教え、いわゆる三悪、七歳までをどう見るかといった子ども観が書き込まれている。けれど史料には、捨て子や子おろし、厳しいしつけの実態も残っている。規範と現実は、江戸でもずれていた。
橘ナナミ
それは今とまったく同じで、ちょっと安心します。
佐藤メバル
うん。だから江戸の育児書は「答え」ではなく「論点の宝庫」として読むのがいい。武家・町人・農民で差があるし、母親側の視点、子ども本人の視点となると、日記や浮世絵、絵双紙、往来物、農書といった周辺資料まで視野を広げたい。近年は人骨や歯の分析から離乳の時期や食生活を推定するといった自然科学側のアプローチも進んでいて、文献と突き合わせる研究も行われている。
橘ナナミ
育児書のまわりに往来物や絵双紙がある、という地図が頭に入りました。
研究の入口と、絶版本の入手という実務
佐藤メバル
研究に進むなら、東洋文庫の『子育ての書』(全3巻)や『近世育児書集成』のような史料集を軸に据えて、『小児必用養育草』『和俗童子訓』『鑑草』『山鹿語類』『父兄訓』『養育往来』といった代表的な育児書・教訓書を、目次を見ながら拾っていく。中世から明治への流れを先に一枚のマップにしてから読むと迷わないよ。
橘ナナミ
逆に、いま子育て中の友人に渡すなら?
佐藤メバル
現代育児に接続したいなら、まず入門書で江戸の考え方を知る。そのうえで「じゃあ今はどうか」を自分で引き算する。江戸の答えをそのまま持ち帰るのではなく、問いの立て方を持ち帰るイメージだね。絶版の本は古書店と図書館、そして史料集に収録されている版を探す、という順番を覚えておくと詰まらない。
よくある質問
江戸時代の子育て本で、初心者におすすめなのはどれですか?
橘ナナミ
江戸時代の子育て本で、初心者におすすめなのはどれですかについて教えてください。
佐藤メバル
まずは新書と入門書から。江戸の教育を場ごとに整理して眺められる小泉吉永『「江戸の子育て」読本』(小学館)、なぜ日本人は教育論が好きなのかを考える中江和恵『江戸の子育て』(文春新書)、誕生の祝いから捨て子・子おろし、絵双六、寺子屋まで生活の実態を並べる中江克己『江戸の躾と子育て』(祥伝社新書)の3冊は入口として扱いやすいです。原文から入る必要はありません。
日本最古の育児書は何で、どこで読めますか?
橘ナナミ
日本最古の育児書は何で、どこで読めますかについて教えてください。
佐藤メバル
「最古」の呼び方には諸説ありますが、しばしば名が挙がるのが江戸前期の医師・香月牛山による『小児必用養育草』です。原文そのものを書店で単体入手するのは難しく、平凡社東洋文庫『子育ての書』のような史料集や復刻版、図書館で当たるのが現実的です。
江戸の育児書は現代語訳で読めますか?文庫や新書はありますか?
橘ナナミ
江戸の育児書は現代語訳で読めますか?文庫や新書はありますかについて教えてください。
佐藤メバル
新書・文庫は解説中心で、原典の現代語訳が単独で読めるものは限られます。東洋文庫のような史料集は原文(翻刻)と注が中心なので、まずは現代語で書かれた入門書で流れをつかみ、必要な箇所を訳注つきの史料で確かめる、という二段構えが現実的です。
絶版になっている江戸の育児書はどう入手すればいいですか?
橘ナナミ
絶版になっている江戸の育児書はどう入手すればいいですかについて教えてください。
佐藤メバル
古書店と図書館の二本立てです。今野信雄『江戸子育て事情』のように書店で見かけにくい本もあり、地元の郷土資料・教育史の棚に眠っていることもあります。全集や史料集に収録されていれば、原本が絶版でも中身は読めます。
江戸時代の子育ては父親が主体だった?今のイクメンと関係ありますか?
橘ナナミ
江戸時代の子育ては父親が主体だった?今のイクメンと関係ありますかについて教えてください。
佐藤メバル
太田素子『江戸の親子』には「父親が子どもを育てた時代」という副題がついています。江戸の育児書が家の当主向けの実務書として読まれた面はありますが、近代以降に強まった「育児は母の役割」という見方とは成り立ちが違います。同じ言葉で語らないほうがいいテーマです。
貝原益軒『和俗童子訓』や中江藤樹の教訓書はどこで入手できますか?
橘ナナミ
貝原益軒『和俗童子訓』や中江藤樹の教訓書はどこで入手できますかについて教えてください。
佐藤メバル
単体で文庫・新書として並ぶことは多くないため、史料集・復刻版・図書館が中心になります。中江藤樹は正保四年(1647)に女性向けの教訓書『鑑草』を出したとされ、その中で胎教から子育てが始まると書いています。小泉吉永『心教を以って尚為す』は育児書100余点を取り上げ、巻末に育児書一覧と索引を備えているので、探す手がかりになります。
東洋文庫『子育ての書』は全何巻で、何が収録されていますか?
橘ナナミ
東洋文庫『子育ての書』は全何巻で、何が収録されていますかについて教えてください。
佐藤メバル
平凡社東洋文庫の『子育ての書』は全3巻で、江戸時代の代表的な育児書・教訓書をまとめて読める基本の史料集です。巻によって収録内容が異なるので、購入前に目次を確認するのが確実。原文と注が中心なので、注を頼りに読み進める形になります。
江戸の子育て本を読むと、現代の育児に役立ちますか?
橘ナナミ
江戸の子育て本を読むと、現代の育児に役立ちますかについて教えてください。
佐藤メバル
直接のハウツーにはなりませんが、体罰をどう考えるか、善悪をいつから教えるか、七歳までをどう見るかといった論点は今と通じます。江戸の答えを借りるのではなく、問いの立て方を持ち帰る読み方が向いています。
まとめ
橘ナナミ
佐藤さん、最初は「江戸の子育て本なんてあるの?」って思ってたのに、今は棚の前で迷っている自分が想像できます。
佐藤メバル
それでいいんだよ。入門は新書、読み物として深く行くなら史料集、原本の空気まで嗅ぎたければ復刻版。目的とレベルを決めてしまえば、選ぶのはそんなに難しくない。
橘ナナミ
規範の本と、暮らしの本をセットで読む、というのもやってみたいです。
佐藤メバル
ぜひ。片方だけだと、江戸がきれいごとにも、ただの昔話にもなってしまうからね。
橘ナナミ
寺子屋の素読って、意味がわからなくても声に出した言葉が体に残る、と聞いたことがあります。今回の記事も、そういう読み方なのかもしれません。
佐藤メバル
いい締めだね。意味を全部わかってから開かなくていい。江戸の子育て本は、今の自分の家族の形をぼんやり照らす行灯のようなもので、正面から照らすというより、隣に置いておくから手元がふっと見えてくる。順番に読まなくていい、気になった一冊から灯りをともしてみよう。
